「あの、ユリお姉ちゃん。こんなところで一体なにをやっているの?」

 と首を傾げる少年。
 まだ10歳だから、政治のこととか聞かされてないのよね。
 ボールを両手に持ち、私の方へ近寄る。

「あ、あのね……ランベルト。今、お姉ちゃん忙しいのよ。どこか他の場所で遊んでくれるかしら?」
「えぇ~ 嫌だぁ! 暇なんだもん!」

 頬を膨らませて、女王に歯向かう少年。
 まあ可愛いから許してあげたいところだけど……皇帝レオンがこちらを睨んでいるから、どこかへ行かせないと。

「ねぇ! ユリお姉ちゃん。遊ぼうよ? ボールを持ってきたよ!」
「だからね……さっきも言ったけど。今お姉ちゃんは、あのおじさんと大事なお話をしていて……」
「もういいよ! じゃあ、あのおじさんと遊ぶもんっ!」
「って、あっ……」

 なにやっているのよ、あの子っ!
 相手はこっちの国へ侵略しようとしてきた、怖~い皇帝様なのに。
 そんなことも知らず、レオンの元へ走り出す。

 あの子は、ああ見えて私の大事な素材。
 今日も私の大好きなファッションで、城内を歩いている。
 トップスはシンプルに白のシャツなんだけど、首元にブラウンのネクタイをつけているし。
 サロペットのショートパンツを履いているから、細くて美しい両脚が拝めるのよ……。

「ねぇ、おじさん! なんて名前なの?」

 とレオンの前に、自身の顔を突き出すランベルト。
 くっ! こちらから見ると、ショタっ子が小さな尻を突き出して見えるのよね。
 このままでは、彼が殺されてしまう。
 
「私の名を……知らぬと申すか?」

 めっちゃ怒ってるわ。
 眉間に皺を寄せて、ランベルトを睨んでいる。

「うん! だっておじさん。この宮殿で見たことないもん」
「そ、それもそうだな……。我が名はレオン・アンドレ、数多の国を蹂躙してきた皇帝であり……」

 と言いかけた際中だが、何も知らないランベルトが話を遮る。

「おじさん! そんなことはどうでもいいから、ボール遊びしない?」
「貴様……私にそのようなことをしろと言うのか?」
「当たり前だよ。おじさんと僕は、もう大切なお友達だもん」
「なっ……」

 言葉を失うレオン皇帝。
 そして、その後どうなったかと言うと、ランベルトとレオン皇帝によるボール遊びが始まったのだ。
 球を蹴って喜ぶ元第三王子。対照的に黙って球を蹴る皇帝。

 どうして、こうなったのかしら?

  ※

「じゃあね、レオンおじさん! また今度遊んでね。約束だよっ!」

 会談をめちゃくちゃにしたランベルト。なぜか終始、笑顔で満足そうだった。
 彼が去っていくと、顔を真っ赤にして元の席へ座り直すレオン皇帝。
 咳ばらいした後、ようやく口を開いた。

「まあ、その……子供というものは、ああいうものだな」

 あれ? なんかちょっと照れてない? この人。
 まさか!? ひょっとして……いや間違いない!
 そう確信した私は、急いで指を鳴らす。
 すると、部屋の扉が開き、カデルが現れた。

「失礼します、レオン皇帝。女王陛下に呼ばれたもので……」

 そう言うと、私の方へ近づく。

「何用ですか? 陛下」

 私は耳を近づけるようにカデルを促すと。
 こう囁いた。

「カデル、今オリヴィアと共同で作成している”新刊本”を持って来て欲しいのよ」
「なっ!? あれは確か地雷が多いと、女王陛下が言われていたじゃないですか?」
「大丈夫よ。間違いないと確信したのだから……」

 勝利を確信した私は思わず、口角を上げてしまうのだった。