エピローグ
「そうだ、今日は早く締めちゃうんだけど大丈夫?」
「何かあるの?」と問うと、少し沈黙になって「彼女、とデートするから」という返事が返ってきた。
「……!」
 そっか、と声を絞り出す。
 やっぱり、そうだよね。三十路にもなれば、彼女くらいいるか。少し期待してしまっていた。二十四にもなって、未練がましい自分が気持ち悪い。
 私は代金を支払って、早々に店を出た。
「気をつけてね」とまた優しくされるから諦めきれないのだろうな。でも、彼女さんがいるなら私は潔く身を引かないと。
 ふと、気を抜くと涙が溢れ出た。
 二十年間の片思いが、終わってしまった。
「……っ」
「え、ちょっと!? 大丈夫?」
 髪がふわふわとした、どちらかと言えば綺麗系の女性が蹲って泣いている私を気にかけてくれた。
 でも、「あれ、りさ? ごめん、待たせた」という君の声で絶望に落とされる。
「風! ううん、全然」
 微笑む二人の前で、どんな顔を作れば良いかもわからない。いたたまれない。
 だから私は逃げようと思った。
 でも、君は「音! ありがとな!」と引き留めた。
「うん、またね」
 嬉しそうに手を振る君を見て、少しだけ心が痛くなった。もう、店には行く気はないから。

 またね、って言ったのは優しい嘘なのだ。
 カーディナルのように、甘い恋ではなかったけれど。小説のネタにでもして、君の事なんか忘れてしまおう。好きだった過去も、全て。

 ばいばい、夜凪さん。