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「好きだ、葦名」
雨宮の震える声に、自分の心の奥深いところが揺れる。
何度も俺から視線を外しては、またぎこちなく目を合わせてくる雨宮を見て、愛おしいって、こういう気持ちのことをいうのかもしれないと思った。
数秒の沈黙の後、「悪かった」と言うと、雨宮は不安そうな顔で俺を見た。なんだよ。そういう意味じゃねぇよ。あの時、適当言うなって、最初から本気にしなかったことを謝ってんの。雨宮は力無く笑った。「おまえのそういうとこ」そう言って、それ以上は何も言わなかった。
「……雨宮が、自分からペアになりたいと思う奴なんていないと思ってた」
「はは。なんだそれ。いるよ。葦名だよ」
もう全てを出し切ったように、雨宮は背もたれにぐったりと背中を預けている。なるようになれ、と、本心をさらけ出す雨宮を抱きしめたくなる衝動に名前をつけるとするならば。
「俺はおまえに選ばれるのも、おまえが誰にも見せたことないような顔を俺に向けてくるのも、気分がいい」
俺の言葉に、雨宮がゆっくりと目を見開く。
「だから隠さずもっと俺にぶつけろ。そうかって頷いて、ちゃんと聞いてやる。俺の気持ちも伝えてやる」
「……それ、つまりどういうこと」
選んで、選ばれて、そういう人との関わり合いは、おそらく図書室だよりの原稿を埋める作業より遥かに面倒くさい。でも、雨宮とならいいかもしれない。おまえに選ばれるのは、悪くないから。
「たぶん、きっとこういう感情を恋っていうんだと思う」
俺の右隣、おまえにくれてやる。