後宮に男を引き入れたと寵姫候補から密告があって、ソフィアは捕縛された。
地下牢でうずくまり、ソフィアは目を閉じていた。
今までの経験からいってマルスは無事だろうが、自分はもしかしたらここまでなのかもしれない。
彼の君の寵姫など、確かに身の程が過ぎる。その卑屈な思いのまま消えゆくのも、主を失った身にはふさわしいように思えた。
滑るような足音が聞こえたのはそのときだった。
ソフィアは目を開いて小さく声を上げる。
「……ナンナ。どうして」
「助けに来たに決まってるでしょ」
共にアナベル皇后に仕えてきた侍女は、声をひそめてソフィアに言う。
ナンナは顎を上げてソフィアを叱った。
「何しおらしい顔してるのよ。アナベル皇后の第一の侍女はどこに行ったの?」
「早く戻った方がいい。君が罰を受けてしまうぞ」
ソフィアが心配事を先に口にすると、ナンナはソフィアの鼻先に指を突き出して言う。
「あなたが捕縛されて黙ってるわけにいかないでしょ! あなたね、あっさり捕まってどうするの。皇后様の元侍女って地位を利用するとか、もっと器用に動きなさいよ!」
「そうは言ってもだな」
ソフィアは当然のことを言うようにナンナに言い返す。
「それは元の生活に置いて来た地位だ。今の私は奴隷ですらない。……だから」
ソフィアはふいに青白い顔にささやかなほほえみを浮かべて言った。
「……そんな何者でもない私のところに来てくれた君は、稀有な友だと思うんだ。さ、戻ってくれ」
ソフィアはナンナが体の後ろに隠している牢の鍵を見通して、彼女に笑いかける。
「ありがとう。私は君にまた勇気をもらった。……もう少し自分と運命を信じて、ここで待つよ」
息を呑んだナンナに、ソフィアは前をみつめて言った。
「私が歩む先の未来が何なのか、今はわからないが。私の中で何かが動き出しているように思えてならないんだ」
「……しょうがないわね」
ナンナは鍵をぎゅっと握りしめると、牢に背を当ててぼやく。
「見届けてあげるわよ。あなたが何者になるのか」
ソフィアは天を仰いで黙る。
天窓からかすかに入り込む光は、まだ絶えない先の道を照らすように二人に降り注いでいた。
地下牢でうずくまり、ソフィアは目を閉じていた。
今までの経験からいってマルスは無事だろうが、自分はもしかしたらここまでなのかもしれない。
彼の君の寵姫など、確かに身の程が過ぎる。その卑屈な思いのまま消えゆくのも、主を失った身にはふさわしいように思えた。
滑るような足音が聞こえたのはそのときだった。
ソフィアは目を開いて小さく声を上げる。
「……ナンナ。どうして」
「助けに来たに決まってるでしょ」
共にアナベル皇后に仕えてきた侍女は、声をひそめてソフィアに言う。
ナンナは顎を上げてソフィアを叱った。
「何しおらしい顔してるのよ。アナベル皇后の第一の侍女はどこに行ったの?」
「早く戻った方がいい。君が罰を受けてしまうぞ」
ソフィアが心配事を先に口にすると、ナンナはソフィアの鼻先に指を突き出して言う。
「あなたが捕縛されて黙ってるわけにいかないでしょ! あなたね、あっさり捕まってどうするの。皇后様の元侍女って地位を利用するとか、もっと器用に動きなさいよ!」
「そうは言ってもだな」
ソフィアは当然のことを言うようにナンナに言い返す。
「それは元の生活に置いて来た地位だ。今の私は奴隷ですらない。……だから」
ソフィアはふいに青白い顔にささやかなほほえみを浮かべて言った。
「……そんな何者でもない私のところに来てくれた君は、稀有な友だと思うんだ。さ、戻ってくれ」
ソフィアはナンナが体の後ろに隠している牢の鍵を見通して、彼女に笑いかける。
「ありがとう。私は君にまた勇気をもらった。……もう少し自分と運命を信じて、ここで待つよ」
息を呑んだナンナに、ソフィアは前をみつめて言った。
「私が歩む先の未来が何なのか、今はわからないが。私の中で何かが動き出しているように思えてならないんだ」
「……しょうがないわね」
ナンナは鍵をぎゅっと握りしめると、牢に背を当ててぼやく。
「見届けてあげるわよ。あなたが何者になるのか」
ソフィアは天を仰いで黙る。
天窓からかすかに入り込む光は、まだ絶えない先の道を照らすように二人に降り注いでいた。