二十二時過ぎ。
同居中の百花の家に到着した有紗が、引き戸をガラガラと開く。
すると玄関で寝そべっていたトロロが有紗を出迎えた。
「ただいまー」
「わん! わん!」
「トロロ待っててくれたのー? 良い子だねー! よーしよしよし!!」
百花と有紗がルームシェアをしている理由は単純だ。
百花は出来るだけ出費を抑えたい、有紗はもふもふと甘いもので癒されたい。
そんな百花に家賃を払う形で、有紗はもふもふなトロロをなで回す権利と、カフェの残りをご馳走になる資格を得た。
なので、有紗はひたすらにトロロをなで回す。
「あー。このもふもふ具合がたまらん……至福……」
そんな有紗の元に、百花が呆れた表情をしながらやってきた。
「癒されるのは分かるけど、いつまで玄関でそれやってるの?」
「はっ、思わず現実逃避してしまった」
「有紗が帰ってきたことだし、金曜夜のご馳走タイム、始めようか」
「待たせちゃってごめんね、モモ」
「わん!」
「……トロロは寝ようね」
「くぅ……」
――
金曜日の夜、ふたりが楽しみにしているのは有紗の帰宅後のご馳走の時間。
有紗の帰りが遅くなく、百花も付き合いでの飲み会がないときは、だいたいこの小さくも幸福なひとときが開催される。
「今日は、トウモロコシのおすそ分けしてもらったの」
百花が皮付きのトウモロコシを二本手に取って、有紗に見せびらかした。
ゆずってくれたのは、今日百花が手伝いをしたのとは別の農家で、カフェの常連さんだ。
「わ〜! 採れたてトウモロコシ! 実がずっしりしてるね。これは食べ応えがありそう~! 焼く? 蒸す? それとも……煮る?」
「醤油で焼くのも良いね」
「あ〜いいね〜! しょっぱい感じのがたまらないよね!」
「けどせっかくの採れたてだから、醤油かけるの勿体ないよね」
「じゃあ蒸そうか」
有紗は蒸し器を取り出すと、水を入れて沸騰させる。
その間にトウモロコシの皮とヒゲを取っていく。
百花はと言うと、蒸し器の隣のコンロでスパゲッティを茹で始めた。
普段のふたりは、残り物は勝手に食べて良し、それ以外は各自で作る……というスタイルだ。
金曜夜のご馳走タイムのときは、作業を協力している。
ダイニングテーブルに並ぶのはだいたいがカフェのお昼に提供していた料理の残りだけれども、殆どの野菜がその日の採れたてで作られている。
有紗にとっては、残り物ではない。ご馳走なのだ。
百花が今日のランチの残りのミートソースを鍋で温めている間に、有紗がサラダを作る。
百花が庭で育てている家庭菜園のキュウリを刻み、サニーレタスと一緒にお皿に盛りつけて、百花特製のニンジンドレッシングをかけた。
出来上がったスパゲッティや蒸し上がったトウモロコシをお皿に盛りつけて、コップに麦茶を注いでテーブルに並べて……。
「出来上がり!」
「じゃあ頂きます~!」
「頂きます」
ふたりは手を合わせて頂きますをすると、さっそく思い思いの料理を口にした。
百花はサラダから。
本日カップ麺以来の初食事でお腹が空いていた有紗は、トウモロコシも気にしつつトマトのミートソーススパゲッティを食べ始める。
「ミートソースはトマトの酸味が程よく効いていて、おいしいね~!」
「夏はやっぱりトマトだと思うな」
「トマトも良いけど、夏はやっぱりトウモロコシでしょ! 今日は蒸したのだけど、焼いたやつも食べたいな~!」
「次も貰えるか分からないから、食べたいなら買ってくるしかないよ?」
「もちろん!」
そう言いながら、ふたりしてトウモロコシを食べた。
「うん。甘味があっておいしい」
「これは醤油つけて食べるの勿体ないね。蒸して正解!」
今日もご飯が美味しいね、と笑いながら、ふたりは遅めのご馳走を食べるのだった。
同居中の百花の家に到着した有紗が、引き戸をガラガラと開く。
すると玄関で寝そべっていたトロロが有紗を出迎えた。
「ただいまー」
「わん! わん!」
「トロロ待っててくれたのー? 良い子だねー! よーしよしよし!!」
百花と有紗がルームシェアをしている理由は単純だ。
百花は出来るだけ出費を抑えたい、有紗はもふもふと甘いもので癒されたい。
そんな百花に家賃を払う形で、有紗はもふもふなトロロをなで回す権利と、カフェの残りをご馳走になる資格を得た。
なので、有紗はひたすらにトロロをなで回す。
「あー。このもふもふ具合がたまらん……至福……」
そんな有紗の元に、百花が呆れた表情をしながらやってきた。
「癒されるのは分かるけど、いつまで玄関でそれやってるの?」
「はっ、思わず現実逃避してしまった」
「有紗が帰ってきたことだし、金曜夜のご馳走タイム、始めようか」
「待たせちゃってごめんね、モモ」
「わん!」
「……トロロは寝ようね」
「くぅ……」
――
金曜日の夜、ふたりが楽しみにしているのは有紗の帰宅後のご馳走の時間。
有紗の帰りが遅くなく、百花も付き合いでの飲み会がないときは、だいたいこの小さくも幸福なひとときが開催される。
「今日は、トウモロコシのおすそ分けしてもらったの」
百花が皮付きのトウモロコシを二本手に取って、有紗に見せびらかした。
ゆずってくれたのは、今日百花が手伝いをしたのとは別の農家で、カフェの常連さんだ。
「わ〜! 採れたてトウモロコシ! 実がずっしりしてるね。これは食べ応えがありそう~! 焼く? 蒸す? それとも……煮る?」
「醤油で焼くのも良いね」
「あ〜いいね〜! しょっぱい感じのがたまらないよね!」
「けどせっかくの採れたてだから、醤油かけるの勿体ないよね」
「じゃあ蒸そうか」
有紗は蒸し器を取り出すと、水を入れて沸騰させる。
その間にトウモロコシの皮とヒゲを取っていく。
百花はと言うと、蒸し器の隣のコンロでスパゲッティを茹で始めた。
普段のふたりは、残り物は勝手に食べて良し、それ以外は各自で作る……というスタイルだ。
金曜夜のご馳走タイムのときは、作業を協力している。
ダイニングテーブルに並ぶのはだいたいがカフェのお昼に提供していた料理の残りだけれども、殆どの野菜がその日の採れたてで作られている。
有紗にとっては、残り物ではない。ご馳走なのだ。
百花が今日のランチの残りのミートソースを鍋で温めている間に、有紗がサラダを作る。
百花が庭で育てている家庭菜園のキュウリを刻み、サニーレタスと一緒にお皿に盛りつけて、百花特製のニンジンドレッシングをかけた。
出来上がったスパゲッティや蒸し上がったトウモロコシをお皿に盛りつけて、コップに麦茶を注いでテーブルに並べて……。
「出来上がり!」
「じゃあ頂きます~!」
「頂きます」
ふたりは手を合わせて頂きますをすると、さっそく思い思いの料理を口にした。
百花はサラダから。
本日カップ麺以来の初食事でお腹が空いていた有紗は、トウモロコシも気にしつつトマトのミートソーススパゲッティを食べ始める。
「ミートソースはトマトの酸味が程よく効いていて、おいしいね~!」
「夏はやっぱりトマトだと思うな」
「トマトも良いけど、夏はやっぱりトウモロコシでしょ! 今日は蒸したのだけど、焼いたやつも食べたいな~!」
「次も貰えるか分からないから、食べたいなら買ってくるしかないよ?」
「もちろん!」
そう言いながら、ふたりしてトウモロコシを食べた。
「うん。甘味があっておいしい」
「これは醤油つけて食べるの勿体ないね。蒸して正解!」
今日もご飯が美味しいね、と笑いながら、ふたりは遅めのご馳走を食べるのだった。