休憩用のパイプ椅子と、色んな資材が置かれた狭い部屋に突っ立っていたのは…

 なんと、あのメガネ君だった。

「で、こっちは天童涼太君。高陵高校の…って、あら。二人とも、もしかして知り合い?」

「ええ、あの…」
「ああ、クラスメイトっす」

 おどおどしているメガネ君を遮るように私が言った。

「あらそう、なら話が早いわ。
 天童くん、基本同じシフトで動くことになるから。仕事のやり方はあゆちゃんに聞いてね。
だーいじょうぶ、そんな不安そうな顔しなくっても。あゆちゃんはベテランさんだから。
 あゆちゃん宜しくお願いね〜。天童君、バイトは初めてってことだから」

「……うーす」
 
 そっか、先週まで一緒だった大学生のマナミさん、辞めちゃったんだ。
 就活ヤバいって言ってたもんなー。

 ぼんやりと考えていた私を、メガネ君がおどおどして不安そうに見ている。
 「あの…」

 ヤベーなコイツ、絡みづらそう。
 思いながらも私は、彼の手を取った。
 店長のご機嫌は取っておくに越したことはない。

「行こ。あっちのロッカーに店のエプロンが入ってる。
 それ着終わったら、受付来て」

「あ、はい」

 メガネ君は、急いでロッカーに向かうと、エプロンを取り出し、先にフロントに向かう私を追ってくる。

 ヤベー、私、こいつの声初めて聞いたわ。
 にしても。
 何か気分いいかも。

 部活もせず、今まで後輩と呼べる存在のいなかった私は、指図どおりに動く同級生に、少なからず満足を覚えた。