「獅穏様はとても寂しい思いをされておられるのでしょう…」


家政婦の篠田さんが母方の祖父に電話していたのを偶然聞いてしまった。

遠くに住む祖父は俺のことを気に掛けてくれていて、短い時間ではあったがちょくちょく電話では話しをしていたが、篠田さんからも状況を聞いていたようだ。


寂しい…


篠田さんはそう言ったが、今まで寂しいと思ったことは一度もなかった。

だから自分には寂しいという感情がないのだと思っていた。

もしかしたら、離れて暮らす母に引き取られていたら、寂しいという感情は人並みに持っていたのかもしれない。

母に取っては愛する息子であったから。

でも、引き取った父にとってはただの跡継ぎにすぎなかった。

いや、きっと母に引き取られていても変わらなかっただろう。

どんなことがあっても、寂しいと感じなかったから。

父と母が離婚しても、母と離れて暮らすことになっても、父が殆んど家に帰ってこなくても、静かな家で一人で暮らしていても、別邸に住まいを移され本邸では父と新しい母が住むことになっても、暫くして弟が産まれても、まだ小さい弟が跡継ぎに代わり俺が用済になっても、一度も寂しいと思ったことはなかった。

あの日、あの祭りで君に会うまでは…



『俺の名前、英雄の星って書くんだ。』



あの日、君に出会ってこの苦しみを知った。

俺に、寂しさを教えてくれたのは君だった。