「あ~ら、梅沢の奥様~、お聞きになりまして?」

「島本の奥様、何のことかしら~?」


風紀委員が立つ校門を通り、駐輪場に自転車を停めて昇降口へと歩いていたところで、後ろからやってきた男子生徒二人の間に挟まれた。
その二人がどこぞの令嬢が如く演技掛かった会話を飛び交わしていくのを俺は無視して歩く。

「山上のお坊っちゃんが昨日校内をお姫様抱っこされて運ばれていらっしゃったんですって~」

「それなら聞きましてよ~顔を赤らめて、それはもう可愛らしかったとそこかしこで話題に上がってましたわ。」

「ああ~、可愛らしい山上のお坊ちゃん、見たかったですわ~」


こいつらのこういうところはいつもの事だが、流石にウザい。


「お前ら、いい加減にしろよ。」


シマとウメ交互に鋭い視線を送った時、後ろから「そうだぞ。」と声がして止まって振り返れば、紙パックの牛乳を片手に持った勇が立っていた。


「アヤはケガして仕方なく…お、おひ、お姫様抱っ、ブフッ…」


我慢しきれず吹き出した勇に冷たい視線を送るが、顔を背け肩を震わせていて、この視線にはきっと気付いていないだろう。


「やべえ、牛乳吐くとこだった。」

「勇、お前が一番ヒドイからな。」

「まあまあ怒るなよ。あー、誰かアルのその写真撮ってないかなー」