保健室まであと少しのところで目的の部屋から見知った顔が出てきた。

肩まである髪を片側で一つに結び、眼鏡を掛けたその人物がこちらに気付くと凄く驚いた顔をした。

実際は目を大きく見開いただけなのだが、笑ったり怒ったりはしても滅多に驚くことがないこーちゃんにとっては、目を大きく見開くことは相当驚いたと言うことなのだ。

けれど、それも一瞬で、直ぐにいつもの顔に戻って訝しげな視線を送ってきた。

「お前は、何をやっているんだ?」

「俺が聞きたい。あっ、海東、この子は大角胡桃。こーちゃん、転校生の海東。」

「ああ、あなたが噂の転校生。大角です
。」

「海東です。」

海道は俺を抱えたままだったが、二人は礼儀正しくお辞儀して挨拶を交わした。

「でっ、どこケガしたの?」

「心です。」

「専門外です。帰って寝な。」

「足ケガしました。保健室入れて下さい。そしてこの状況から助けて下さい。」

口早に言えば、「ケガはともかく後者は助けられるか分からないよ。」と保健室の扉を開けて先に中に入っていく。

「?」

「富岡先生ー、山ちゃん足ケガしたってー」

続いて入っていく俺たちにデジャブが起った。

保健室には、見知った顔も含め結構生徒が残っていて、昇降口の時と同じように一瞬の静寂の後に起こる黄色い悲鳴。


"後者は助けられるか分からない"ってこういうことか…

もう帰りたい…