『――配信枠はお前が立ててくれる? 前日の配信で告知したいから、それまでに』
「わかりました!」
『サムネはお前に任せる。素材いるなら渡すけど』
「じゃあ、素材送っておいてください。サムネのデザインに希望とかありますか?」
『別にない。心配なら先に見せて』
意外に面倒見がいい――というのがコルの印象だった。それに必要なことが驚くほどさくさく決まる。
配信で見る天真爛漫なコルの違って配信外のオフのコルはやはりダウナーな印象なのに、その印象とは対照的にコルの指示はどれも的確で、話していて不安要素が一切ないことに驚いた。
――頭の回転が速いだけじゃなくて、他人のことをよく見てるんだ。
顔の見えない音声だけのやり取りでも、ここまで察してくれるなんて……本当にすごいとしかいえない。
『ゲーム、俺が選んだやつでよかったのか?』
配信で一緒にプレイするゲームは、コルがリストアップしてくれたものの中から選んだ。
二人で協力して謎解きをするゲームだ。
他にやりたいゲームがあるならそれでもいいと言われたが、そのタイトルが候補に上がってるのを見つけて即決した。
「それがいいです! 先輩たちの配信で見て、ずっとやってみたかったゲームなので!」
『友達とやらなかったのか?』
「やってません。いつかこの部に入って、配信でやるって決めてたので……願掛けでもあったんですけど」
『へえ。相手、俺でよかったの?』
「いいに決まってるじゃないですか! コル先輩はおれにとって憧れのライバーですよ!! 今からめっちゃ緊張してますけど……おれ、頑張ります!!!」
『お前、本当に声デカすぎな。でも……なんか嬉しいわ』
「……ッ!!」
――今の声、笑ってた?
嬉しい、と言ったコルの声の柔らかさにキュンと胸が鳴った気がした。
少し息苦しいような……でも不快な感じではなくて、ちょっと甘酸っぱいような不思議な感覚だ。
――やば……なんか顔熱い。
顔だけではなかった。
全身の体温が一気に上がる。
水を飲んでも、手でパタパタと仰いでも、その熱は全然冷めそうにない。
「あ、あの……おれ、そろそろ風呂に」
『そんな時間か。もし、わかんないことあったらいつでも連絡して』
「ありがとうございます。じゃあ、失礼します!!」
風呂の時間なのは嘘ではなかったが、貴樹は逃げるようにチャットを抜けた。
◆
寮の入浴時間は学年によって大まかに決まっている。大浴場以外にも個室のシャワールームもあって、自由に選べるようになっていた。
貴樹はいつも通り大浴場へ向かう。
19時台は食堂の混雑時間と被っているので、タイミングがよければ空いている時間だ。
「やった、貸切じゃん」
大浴場の利用者は誰もいなかった。
こんなことは滅多にない。
気が大きくなった貴樹は一気に全裸になって、鼻歌混じりに洗い場に向かった。
最初は鼻歌だけだったが、髪を洗っているうちに気持ちよくなって、無意識に歌を口ずさんでしまう。アニメの主題歌も歌っている貴樹が大好きなアーティストの曲だ。
「歌、やっぱり上手いな」
「ひゃ――ッ!!」
突然後ろから聞こえた声に、飛び上がるほど驚いた。
目を開けてしまったせいで、ちょうど洗い流していたシャンプーが目に入ってしまう。
「っ、痛……っ」
「そんなに驚くなよ」
目は開けられないが、この声が誰のものかは確認しなくてもわかった。
――どうして、このタイミングに。
それに、いつ入ってきたのだろう。
「ちゃんと流せよ」
「言われなくても、やるし……」
髪に残っていた泡と一緒に目に入ったシャンプーを洗い流す。
「急に声かけるなよ……白瀬」
隣で身体を洗っている相手の顔を確認して、つい悪態をついてしまった。
――同じ寮なのはわかってたけど、このタイミングに白瀬が来たのは偶然? それとも、やっぱり白瀬は……。
二人の声はやっぱり似ている。
でも、気づいていないふりをするしかない。
貴樹はカランについた泡を流すと、白瀬と距離を取るためにそそくさと湯船に向かった。
――さっさと出よう。
風呂は好きなので本当はゆっくりしたかったが、白瀬と二人きりなのは無理だ。
肩まで浸かって数十秒、湯船を出ようとした貴樹だったが、揺れるお湯に阻まれてうまく立てなかった。
「もうちょっと入ってけよ」
白瀬が湯船に入ってきたせいだ。
「お前……もっと静かに入れって」
文句を言いながら、白瀬の顔を見る。
そのまま数秒固まった。
白瀬が濡れた前髪を掻き上げていたからだ。普段は見えない素顔が露わになっている。
「お、お前……っ」
――あのときの美形じゃねえか!!!
叫ぶのを堪えられたのは、もはや奇跡だった。
「わかりました!」
『サムネはお前に任せる。素材いるなら渡すけど』
「じゃあ、素材送っておいてください。サムネのデザインに希望とかありますか?」
『別にない。心配なら先に見せて』
意外に面倒見がいい――というのがコルの印象だった。それに必要なことが驚くほどさくさく決まる。
配信で見る天真爛漫なコルの違って配信外のオフのコルはやはりダウナーな印象なのに、その印象とは対照的にコルの指示はどれも的確で、話していて不安要素が一切ないことに驚いた。
――頭の回転が速いだけじゃなくて、他人のことをよく見てるんだ。
顔の見えない音声だけのやり取りでも、ここまで察してくれるなんて……本当にすごいとしかいえない。
『ゲーム、俺が選んだやつでよかったのか?』
配信で一緒にプレイするゲームは、コルがリストアップしてくれたものの中から選んだ。
二人で協力して謎解きをするゲームだ。
他にやりたいゲームがあるならそれでもいいと言われたが、そのタイトルが候補に上がってるのを見つけて即決した。
「それがいいです! 先輩たちの配信で見て、ずっとやってみたかったゲームなので!」
『友達とやらなかったのか?』
「やってません。いつかこの部に入って、配信でやるって決めてたので……願掛けでもあったんですけど」
『へえ。相手、俺でよかったの?』
「いいに決まってるじゃないですか! コル先輩はおれにとって憧れのライバーですよ!! 今からめっちゃ緊張してますけど……おれ、頑張ります!!!」
『お前、本当に声デカすぎな。でも……なんか嬉しいわ』
「……ッ!!」
――今の声、笑ってた?
嬉しい、と言ったコルの声の柔らかさにキュンと胸が鳴った気がした。
少し息苦しいような……でも不快な感じではなくて、ちょっと甘酸っぱいような不思議な感覚だ。
――やば……なんか顔熱い。
顔だけではなかった。
全身の体温が一気に上がる。
水を飲んでも、手でパタパタと仰いでも、その熱は全然冷めそうにない。
「あ、あの……おれ、そろそろ風呂に」
『そんな時間か。もし、わかんないことあったらいつでも連絡して』
「ありがとうございます。じゃあ、失礼します!!」
風呂の時間なのは嘘ではなかったが、貴樹は逃げるようにチャットを抜けた。
◆
寮の入浴時間は学年によって大まかに決まっている。大浴場以外にも個室のシャワールームもあって、自由に選べるようになっていた。
貴樹はいつも通り大浴場へ向かう。
19時台は食堂の混雑時間と被っているので、タイミングがよければ空いている時間だ。
「やった、貸切じゃん」
大浴場の利用者は誰もいなかった。
こんなことは滅多にない。
気が大きくなった貴樹は一気に全裸になって、鼻歌混じりに洗い場に向かった。
最初は鼻歌だけだったが、髪を洗っているうちに気持ちよくなって、無意識に歌を口ずさんでしまう。アニメの主題歌も歌っている貴樹が大好きなアーティストの曲だ。
「歌、やっぱり上手いな」
「ひゃ――ッ!!」
突然後ろから聞こえた声に、飛び上がるほど驚いた。
目を開けてしまったせいで、ちょうど洗い流していたシャンプーが目に入ってしまう。
「っ、痛……っ」
「そんなに驚くなよ」
目は開けられないが、この声が誰のものかは確認しなくてもわかった。
――どうして、このタイミングに。
それに、いつ入ってきたのだろう。
「ちゃんと流せよ」
「言われなくても、やるし……」
髪に残っていた泡と一緒に目に入ったシャンプーを洗い流す。
「急に声かけるなよ……白瀬」
隣で身体を洗っている相手の顔を確認して、つい悪態をついてしまった。
――同じ寮なのはわかってたけど、このタイミングに白瀬が来たのは偶然? それとも、やっぱり白瀬は……。
二人の声はやっぱり似ている。
でも、気づいていないふりをするしかない。
貴樹はカランについた泡を流すと、白瀬と距離を取るためにそそくさと湯船に向かった。
――さっさと出よう。
風呂は好きなので本当はゆっくりしたかったが、白瀬と二人きりなのは無理だ。
肩まで浸かって数十秒、湯船を出ようとした貴樹だったが、揺れるお湯に阻まれてうまく立てなかった。
「もうちょっと入ってけよ」
白瀬が湯船に入ってきたせいだ。
「お前……もっと静かに入れって」
文句を言いながら、白瀬の顔を見る。
そのまま数秒固まった。
白瀬が濡れた前髪を掻き上げていたからだ。普段は見えない素顔が露わになっている。
「お、お前……っ」
――あのときの美形じゃねえか!!!
叫ぶのを堪えられたのは、もはや奇跡だった。