――あの美形の正体は白瀬で、その上、コル先輩かも知れなくて……あー! もう! わからん!!

 何も整理がつかないまま、コルとジジのコラボ配信の日がやってきた。
 初配信の日から3週間ちょっと。
 ジジ個人での配信は2日に一回のペースでしているので、配信自体はすでに10回を超えている。
 配信にはそろそろ慣れてきた貴樹だったが、油断は禁物だと先輩方から忠告を受けていた。それに誰かとコラボで配信するのはこれが初めてなので、緊張は隠せない。

 ――相手はリスナー時代からずっと推してるコル先輩だし。

 そんなコルと一緒に配信できるのは嬉しいが、コルの声を聞くとどうしても白瀬のことが頭をチラつく。
 向こうは貴樹がそんな悩みを抱いていると気づいていないのか、態度はいつも変わらなかった。

『準備できた?』
「はい! 大丈夫です!!」
『マイクの音量バランスだけ不安だな』
「あ、すみません……おれの声がデカいからですよね?」
『いや、こっちの話。あと五分だし、そろそろやっとくか』

 まだ配信外のダウナーコルだ。
 キャラはいつ切り替わるのだろう。初配信のときは一瞬の変化だった気がする。

『一旦声出すから、音量調節して』
「……声出す?」
『こんコル! 声を出すってのは、こういうことだよ。どう? 音割れてない?』

 今日も一瞬で声の雰囲気が変わった。
 話し方まで別人みたいに違う。それなのに、演技のようなわざとらしさは全くないのだからすごい。 

 ――こんなの、やろうと思ってもできないって。

 セイガも言っていたが、これは天賦の才もあるのだろう。

『ジジくーん、平気そう?』
「あ、はい! 音割れしてないし、大丈夫だと思います」
『……そ。じゃあ、SNSに告知してくる』

 声がまたダウナーに戻った。
 話し方も声も、本当に自由自在のようだ。

 ――よし! たくさん勉強させてもらうぞ!!

 せっかく誘ってもらえたのだ。
 このチャンスを活かすために、貴樹は気合いを入れ直した。


   ◆


「クリア!! やったー!」
『ジジくん、ナイスー! お疲れさま!』
「コル先輩もナイスでした! お疲れさまです!!」

 配信時間は3時間半を超えていた。
 個人配信は一度に1時間半までと決めていたので、最長記録だ。

〈やったー! お疲れさま!!〉
〈ラストの連携すごかった! 2人ともナイスアシストすぎ〉
〈最後の謎解きここまでスムーズなの初めて見た。コルジジ相性よすぎでは〉

 コメント欄も盛り上がっている。
 コルとのコラボ配信ということで、今日はいつもの10倍以上のリスナーが見にきてくれていた。新規リスナーばかりだ。

「皆さんも最後までお付き合いありがとうございました! 最後の謎解きがスムーズだったのは、コル先輩のおかげですね!」
『そんなことないってー! ジジくん、俺がヒント見つける前から謎解き始めてたじゃん』
「この配列に見覚えある気がして。これってチュートリアルで解いた謎と似てるんじゃ? って気づいたからやってみてたんですよ」
『よく覚えてたよねー、チュートリアルにやった謎解きなんて。偉すぎ! 最高だよ!』
「えっへへへ」

 コルに褒められるのが嬉しくて、緩みきった笑い声が出てしまう。
 でも、謎解きだけでなく、このコラボがスムーズに進行したのは全部コルのおかげだった。これはお世辞でもなんでもなく事実だ。
 コルは一緒にわちゃわちゃ楽しんでいるように見せつつ、常に配信全体のことに気を配ってくれていた。ライバー歴は半年しか違わないのに、本当に尊敬できる先輩だった。
 それに推しとしても惚れ直していた。
 会話は面白いし、眩しいぐらいキラキラ明るくて、それに甘やかすようにたくさん褒めてくれる。

 ――リスナーしてたから知ってたけど、コル先輩ってまじで人たらしすぎ。

 わかっていても、ときめいてしまう。
 この人はいい意味で魔性だ。

『さーて、そろそろ締めにしよっか』
「ですね。今日はコラボありがとうございました! 初めてのコラボがコル先輩とで本当によかったです!」
『俺もジジくんとコラボできて楽しかったよ! 絶対またしたい! やろう!!』
「やりましょう! 次は何がいいですかね」

〈何か食べながら雑談コラボでもいい〉
〈声の相性よすぎだから一緒に歌ってほしい〉
〈二人の歌聞きたい。わかる〉

「え、歌いいな!! おれもコル先輩と歌いたいです!」
『……歌、かぁ』

 ――? あれ……コル先輩の反応鈍い?

 コルなら『いいね!!』とすぐに乗ってきてくれると思ったのに、反応は悪かった。
 わかりやすく声のテンションが下がっている。

「また、相談して決めましょう!」
『そうだね! やりたいゲームとかもまだまだあるし!! んじゃ、今日はこの辺で終わり! 最後の挨拶どうする?』
「おれ、コル先輩と一緒に『おつコル』やりたいです!」
『じゃあ、やろっか。みんなも一緒に、せーの!』
「「おつコル!!」」

 コラボ配信は無事に終わったのに、貴樹の心にはなんともいえないモヤモヤが残っていた。