飴の実演販売はリズムよくとんとんとことこ響く包丁の音が楽しくて、ついつい見入ってしまった。片手で飴を伸ばしながらリズミカルにまな板を叩くのは難しいと思うのだが、リズムは乱れることがない。そのままとんとんと飴を切っていくのも熟練の技だ。

 会場に近づくにつれ、たくさんの風鈴の音が重奏のように届いてわくわくした。
「風鈴祭りって初めて!」
「私も。どんな祭りかなって楽しみにしてた」
 黎奈の言葉は意外だった。

「着物で出かけることが多いならこういうお祭りもよく来てるかと思った」
「普段はご近所しか行かないから」

「近所になにしに?」
「スーパーとか」

「勇者!」
「結局は服なんだからなに着ようと自由よ」
 それがすごい、と紗都は思う。自分は周囲の目が気になってしまって、そんなふうに割り切れない。

 会場には奥まで続く長い(やぐら)が建てられていた。風鈴がずらりと吊り下げられ、まるで風鈴の回廊だ。

 高い音から低い音まで、りんりんりんりんと鳴り響く。
 不思議とうるさくはなかった。楽しげに風を奏で、風流を通り越してひたすらにぎやかだ。

 その下を歩く人達には笑みが満ち、ときに立ち止まり、ときに耳をすませて視覚と聴覚で風鈴を堪能している。

 ふたりもさっそく櫓の下に入った。ごった返す人波に蒸し暑さが倍増する。
 両側に並ぶすべての店が風鈴を売っている。
「これ全部売り物なんだ!」
 櫓から下がる風鈴の値札に気がつき、紗都は声を上げた。