「この着物は振袖じゃなくて袷です。袷は秋から冬、春先まで着るものなんですけど、今日着ているのは種類的には小紋といって普段着の部類で、第一礼装である振袖とはまったく着るときのシチュエーションが違います。振袖は袖丈百十四センチのものが大振袖、百センチくらいで中振袖、八十五センチくらいで小振袖とわけられます」

 電車の中で一度空想していたからか、すらすらと口に出てきた。
 頭の中には、いつか着物警察を撃退した黎奈の姿が浮かんでいた。

「すごい詳しいんだね」
 メガネの女性が目を丸くすると、
「そうなんですよ、着物のプロなんで」
 なぜか千与加が得意げに言う。

「プロじゃないから」
 紗都は慌てて否定する。

「着物がほんとに好きなんだね」
「なんかごめん」
 さきほど笑っていた同僚たちに謝られ、紗都はにこっと笑みを返した。

 きっと自分は今、千与加だけじゃなく黎奈にも助けられた。電車の中で黎奈なら……と思ったからこんなにすらすら出てきたのだ。
 友達って、目の前にいなくても助けてくれるんだ。
 なんだか胸が熱くなる。

 チョモヤさんがマウントさんをつつくと、マウントさんは、
「悪かったよ」
 と弱々しく言った。