忘年会に着ていったら、また新しい扉を開くことができるのだろうか。
 会社の人たちも着物には肯定的な様子だった。
 忘年会は私服でOKだということだし。
 と思って首をふる。

 いくらなんでも着物はみんなびっくりしちゃうよね。
 驚く姿を見てみたい誘惑が湧いてきて、それは紗都をとらえてなかなか離してくれなかった。

 翌日、出勤した千与加は紗都を見るなり顔を輝かせた。
「那賀野さんの着物に合わせてコーデしようと思って、服買いました」
「え?」

「だから忘年会には着物で来てくださいね!」
「う、うん……」
 目をきらきらさせている千与加の圧に勝てなかった。

 だが同時にうきうきした気分が湧いてくる。
 クリスマスが近いし、着るなら赤い着物……古典柄の花の着物に緑の帯かな。お太鼓に結ぶのは苦手だから半幅帯で。帯締めは……黄色にすると信号機みたいになっちゃう? 赤にするか、ベージュ、薄紫でもいいかも? かんざしは雪の結晶の!
 考え始めると止まらなくて、そわそわしてしまった。



 なにごともなく毎日の仕事をこなして、とうとう忘年会の当日となった。
 千与加に念を押されたので、紗都は着物を着ていくことにした。