きっとみんな、本人すら気付かず、叫んでいる。

 私を認めて。
 私はここにいるよ。

「好きな物を好きって言うだけのことが難しいなんてね」
 紗都が言うと、黎奈はさらにわーっと泣いた。



 ひとしきり泣いた黎奈は、ぐすっと鼻をすすりながら紗都を見た。
「ごめん、泣いちゃって」
「いいよ、それくらい悲しかったんだよね」
 黎奈は嗚咽をこらえながら頷く。

「初めて付き合った人で、舞い上がってた。着物のこと以外はいい人だった。だから着物は趣味として彼の前で着なきゃいいと思ってた」
「そんなにいい人だったんだ?」

「だから着物に関してそんなふうに言われるなんて思いもしなかった」
「彼氏は何歳なの?」
「二十二歳、同い年」
「まだ若いから周りの評価も気になる年齢なんだろうな」

「年をとれば周りの目なんて気にならない?」
「うーん、私はまだ気になるなあ。結局、日本人って周りの目を気にして生きるようになってるから、仕方ないかもね。だから外国より平和なのかもだし……」
 周りの目が気になって、周りに合わせて、波を立てないように、お互いに気を遣って。