「なんで好きなもの着てたらダメなの?」
「ダメじゃないよ」
 紗都は黎奈の隣に座り、背をさすった。

「黎奈のコーデはいつも素敵だし輝いてるよ。私の憧れだもん」
「だけど、変な着方してって言われることもよくあるし」

「時代についていけない人の言うことじゃん。江戸時代の人に現代人のミニスカート姿を見せたらびっくりするのと同じだよ」
「江戸時代って、遡り過ぎ」
 紗都の言葉に黎奈は弱々しく笑った。

「難しいね、好きなことをするのって。多様性の時代とか個性が大事とか言いながら、個性を出すと叩かれるの、理不尽だよね」
「私が着物でこの世にどんな不幸が訪れるっていうのよ。なんにもないじゃない」
 黎奈がぼやく。

 他人に決められて、型にはめられて傷ついて。
 自分もこうして打ちのめされた時期があった。

 どうして自分の好きなようにしてはいけないのだろう。
 どうして自分の自由にできないのだろう。
 自由ってなんだろう。
 そんなことをとりとめもなく考え、仕事の忙しさにかまけていつしか忘れていく。
 どうしようもない、この社会で生きているのだから。

 一言投稿サイトを覗くと自己主張の嵐。
 見えない海に溺れて、沈まないように必死にもがいているかのよう。