黎奈は勢い込んで身を乗り出した。
「もういい加減に着物を卒業しろよって言われたの。ひどくない?」
「着るのやめろってこと?」

「そうなの! 初めて会ったときは着物が素敵だってほめてくれたのに。だから最初のデートにも着て行って、そのときもほめてくれて。なのに、その次にはもうやめてって言われて」
「着物が好きじゃなかったのかな」

「自分が見たいときだけ私に着物着てほしいみたい」
「なにそれ、わがまま!」

「だよねえ!」
 黎奈は軽くテーブルを叩いた。
「そのあとはちゃんと洋服で、今日だって洋服だったのに文句言われたのよ!?」

「なんで?」
「着物コーデをネットに上げるのが気に入らないみたい。俺の友達に笑われるからやめろ、お前のためだぞって」

「自分が嫌だからやめろって言ってるだけじゃない」
「だよね! 着物やめないなら別れるって言うからさ、ふってやったの。着物やめるくらいならあんたの恋人やめるって!」
 黎奈の笑みに細めた目から、光る雫がぽろぽろとこぼれた。

「自己主張激しすぎとか一緒にいると恥ずかしいとか。彼といるときは着てないのに。友達にも紹介できないって。紹介してなんて頼んだことないのに」
 声が涙で震え、黎奈は顔を両手で覆った。