「結局、利益が出るかどうかよね。世知辛い。菊のお酒とか作ってくれたら菊の節句も盛り上がるのかな。菊の形の和菓子とか、ケーキとか。だんだん夢が広が出てきた。食べ物限定で。紅葉はイベントってより観光って感じだし」
 小さい頃、日本には四季があると大人が得意げに言うのを聞いて、外国には四季がないのだと思った。だが実際には外国にも――国にもよるが――四季があり、紅葉を楽しむ文化もちゃんとある。それを知ったときには騙された気持ちになったものだった。

「でも紅葉狩りいいですよねえ。無駄にテンション上がりますよ」
「紅葉狩りかあ」
 着物で紅葉を見に行くのは楽しそうだ。
 帰ったら黎奈に連絡してみよう、と紗都は心に決めた。



 帰り道で一言投稿サイトを見ると、黎奈は紅葉コーデを上げていた。
 クリーム色の無地の着物で同色の帯には紅葉した蔦。お太鼓結びの太鼓部分にはいっそうあでやかに、赤い葉が踊るように描かれている。
 帯締めはグレーで、帯揚げの紺色とトルコ石のような帯留めがアクセントになっている。

「今回も素敵」
 いいねを押してから、自分が紅葉コーデをするなら、と考える。
 が、手持ちの着物だとできなさそうだから、芸術の秋、と考えてみる。
 音符の帯があるから、絶対にそれ。着物はグレージュの千鳥格子なんて紅葉に映えるかな?

 わくわくしながら黎奈にメッセージを送る。
『今度の土曜日、一緒にイチョウの並木道に行かない?』
 有名な紅葉スポットに誘った。イチョウだから黄葉と言うべきか。ちょうど見ごろとなっているはずだ。

『ごめん、土曜はデートなの』
 その返信に、紗都は少なからず落胆した。