「えっと、いい人ならって感じ」
絞り出した言葉に、男は待ってましたとばかりに畳みかける。

「そう言う人に限って理想が高いんだよね。現実見なきゃ結婚どころか恋人もできないよ?」
「なかなか出会いもなくて」
「出会いは自分で作らなくちゃさあ」

 なんでこんなにぐいぐい来るんだろう。
 男性のにやにや顔が不快だが、はは、と曖昧に笑ってごまかす。
 親切ごかしで言ってくるが、上から目線でいい気持ちになりたいだけだろう。結婚したがってると思われるのも癪だがストレートに言うと角が立つし、精神を地味に削られる。この人はいつもマウントをかましてくるから、ひそかにマウントさんと呼んでいた。

「でも今は趣味が楽しいんで」
「趣味ってなに?」

「着物にはまってるんです」
「お金持ちなんだねえ」
 マウントさんの嫌味なのか感嘆なのかわからない声音に、紗都は慌てる。

「数千円で買える安いものばっかりですよ」
「そんな安い着物あるんですか?」
 千与加が驚いて聞いてくる。

「あるの。自宅で洗えるところが気に入ってる」
「そんなものに時間と金を使ってないでさ、男ウケする服の研究でもしたら?」
 言い置いて、彼は笑いながら去って行った。