「見ただけでわかるの?」
「だいたいね。慣れよ、慣れ」
 黎奈はなんでもないことのように言う。

「……これも買っちゃお! さっきの帯に合うよね?」
「絶対に合うと思う」
「着物、増える一方になりそう」
「その通りだよ!」
 辻が花の紺色の着物を手に、黎奈は笑った。



 十六時の閉会まで骨董市に居座ったふたりは、駅前の喫茶店に入って休憩した。
 黎奈は詰め放題のお店でビニール袋いっぱいに着物を買っていた。

「着物ってけっこう重いね」
「着てると平気なのにね」

 答えて、黎奈はケーキを頬張る。和栗とチョコレートのケーキだ。ラム酒を使ったチョコレートスポンジに栗の粒の入ったチョコレートのクリーム、天辺にもチョコのクリームがたっぷり塗られて合計六層になった背の高いケーキだ。グラッセされたマロンに金粉が輝き、シンプルであるがゆえに凛としたたたずまいを見せていた。

「おいしい! 疲れたから甘いものが沁みる」

 紗都もタルトをフォークで斬って口に運んだ。
 タルトの香ばしさがふわりと広がる。バターとアーモンドクリームの風味にとろりとした洋ナシの触感と甘さがたまらない。