「骨董市はねえ、お金がいくらあっても足りないよ」
 黎奈はにっこりと笑う。

 さらにあちこち見て回り、繊細なガラスの香水瓶にため息をもらし、用途不明な道具に首をひねった。

 着物の店には必ず立ち寄った。新品が新品の値段で混じっていることもあったし、しみだらけの着物が百円で売られていることもあった。そういうものは手芸を趣味とする人が小物を作るためにしみのない部分を目的に買っていくらしい。

「いいのあった?」
 店をまわりながら黎奈に聞かれ、紗都は頷く。
「でもお値段が初心者には厳しいかも」
「値段ならね、あの店がすごいよ。ビニール袋が千円で、その袋に着物つめ放題!」
「ええ!?」

「閉会間際になると五百円になるのよ。それまで待つといい物がなくなるかもしれないし、いつ参戦するか迷うのよね」
 言われた店にはビニール袋を手に持ったおばさま方が群がっている。たくさんの段ボールが並べられ、着物が乱雑にあふれていた。

「あとにしよっか。お店はまだあるし」
 黎奈に連れられた次のお店もまた着物がたくさんあったが、それなりにお値段するよね、と思いながら眺める。

 と、しつけ糸で固定されているらしき布の塊を見つけた。どうやら帯のようだ。ピンクがかった落ち着いた朱色が素敵だ。
「いい色ね」
「でもどうしてこんな状態なんだろ」