「私、骨董市でも着物買うの。掘り出し物がたくさんあるよ」
「でも、たいてい正絹(しょうけん)で洗えないよね? 古着が洗えないのって嫌じゃない?」
 正絹は絹百パーセントの意味だ。絹は水につけると縮んだり変色したりする可能性がある。

「それが問題。クリーニングは高いし、日干ししてから着ることにしてる」
「日光消毒的な」
 紗都は思わず笑ってしまった。

「さて、どうやってまわろうか。希望はある?」
「初めてだからわからなくて」
「欲しいものとかは特にない?」
「ないよ」
 即答したが、本当は違う。黎奈のレースの羽織を見て、自分も欲しくなっていた。だが、初対面でそれを言うのが恥ずかしくて言えない。

 ふと背中に違和を感じて手を当てる。直後、ばらっと崩れる手触りがあった。
「嘘、どうしよう。動画を見ながらでないと結べないのに」
「直すよ。帯紐を一回ほどいてくれる?」
「わかった」
 紗都が帯紐をほどき、後ろに回った黎奈がささっと手を動かす。
「オッケー、帯紐を締め直して」
 紗都は帯紐を締め直した。

「ありがとう! すぐに直せるなんてすごいね」
「慣れたから。私も最初は人に直してもらったりしたよ。じゃあ順番に見ていこうか」
 黎奈に連れられて、近いところから見ていった。