店員が奥にいるのを確認し、今だ、とプレタの着物コーナーを見る。買わない確率が高いから店員に見つかりたくなかったのだ。
「やっぱりないなあ」
 袷ばかりだと確認して帰ろうとしたときだった。

「なにかお探しですか?」
 店員に話しかけられ、びくっとした。
「単衣のプレタがないかなあって」
 ないから帰る、という流れにしたかったのだが。

「なかなかないんですよねえ。よかったらマイサイズでお仕立てしませんか? こちらなんてお似合いですよ、当ててご覧になります?」
 きれいなくすみピンクの反物を手に、店員が言う。

「いえ、電車の時間が……」
「十分でできますよ」
 紗都は断ることもできず、店員に勧められるままに試着スペースに連れていかれる。

 簡易の襟をつけられ、反物を器用に使い、実際に着物を着ているかのような見た目になった。
「ああ素敵、お似合いです!」
 その声をきっかけのようにして、奥から店員がふたりほど出てきた。

「あら、素敵!」
「とってもおきれいで!」
 増えた店員も紗都を気持ち悪いくらいに褒めたたえる。