「紗都、お知り合いの方?」
 聞こえた声に紗都は焦った。もう黎奈が帰ってきてしまった。

「そうじゃないけど……」
「あなた、なにその組み合わせは。レースをつけるなんて伝統をないがしろにして!」
ねちねちと絡むおばさまたちに、黎奈は平然としている。

「着物にお詳しいんですねー。ふだんどれくらい着られるんですか?」
 その質問に、おばさまは面食らったように一瞬、黙る。

「……機会があれば着るわよ」
「どんな機会ですか? お茶とかお花とか?」

「そ、そういうわけじゃないわ」
「どれくらいの頻度ですか? 前回着たのはいつですか?」

「い、いつでもいいじゃないの!」
「そうよ、着付けのマナーを教えてあげてるんだから!」
 おばさまがたは怯みながらも言い返す。

 が、黎奈は容赦なく続ける。
「お着物は何着くらいお持ちで? 帯は何本ほど?」

「なんなのよ、あなた、失礼ね!」
「もう行きましょ!」

「ぜひ見せてくださいよー!」
 黎奈が追い打ちのように言うが、おばさま方は振り返らない。
 後ろ姿を見送って、紗都はふうっと大きく息を吐いた。