「見慣れてるからかな」
「そうかもね。あと、文句言って来る人って、たいてい幸せじゃない気がする」
「わかる気がする」
 ふたりでかき氷を食べたあとはまた風鈴を眺めに行く。

 りんりんと鳴るそれらを慎重に選び、黎奈はUFOのような風鈴を選んだ。風鈴の下にはさらわれそうになっている人が描かれた短冊がついている。
 紗都は風鈴のイヤリングと簪を買った。実際には鳴らないのだが、見た目がとてもかわいくて、さっそく身に着けた。



 風鈴祭りのあと、駅で黎奈がお手洗いに行き、紗都がひとりで待っていたときだった。

「あら、お着物なの」
 見知らぬ女性に声をかけられた。老齢にさしかかろうかという年齢のふたり組だ。

「襟抜きが下手ねえ」
 いきなりのダメ出しに、着物警察だ、と、紗都は青ざめた。昼間のご婦人とはまったく違う、見下した目が不愉快だ。

「もっと襟をぬくべきよ。おはしょりも汚いわねえ」
「……すみません、気をつけます」
 もめたくないので素直に謝った。だがこれで去ってはくれず、ふたりはさらに言い募る。

「若いからって、着物はきちんと着てもらわないと」
「日本の大事な文化ですものねえ」

 逃げたいが、黎奈を待っているからそれもできない。というより、この場に黎奈が来たら彼女も巻き込まれてしまう。なんとかしないと。