「あら、あのお方がわたしのところへ行ってやれって?」

 その人を見つけたとき、彼女はいつものように微笑んでわたしを出迎えてくれた。

 まるでわたしがここに来るのがわかっていたように。

「大丈夫よ、ノエル。気にしないで」

「アイリーン様……アイリーン様……」

 彼女の顔を見たら、涙が溢れてきた。

「アイリーン様……ごめんなさい……」

 何が、とは言わない。

 でも、わたしは泣いていた。

 泣きたいのは、間違いなくわたしではないのに、わたしはわんわん子どものように泣きじゃくっていた。

 目をこするたび、アイシャドウの粒子がキラキラと宙を舞う。

「アイリーン様……」

「泣かないで、ノエル……」

 わたしまで悲しくなるわ、とアイリーン様は口角を上げる。

 だけど、その微笑みはひどく弱々しい。

「大丈夫よ。わたしもあのときは、魔術師になる前だったのだけど、あの光景は十分に予期していたし、あの街がああなることははじめから知っていたのよ」

 だから、と彼女は笑う。

 その瞳から大粒の涙がほろりと伝う。

「王宮へ来てからはあの日に備えて術を極めたわ。もちろんちゃんと結界だって、あの日の当日までに張ることはできていた。勇者や巫女が現れる前からしっかり準備はできていたのよ。でも……」

 ごめんなさい、と彼女は自身の身に巻き付けた、ショールで顔を覆う。

「ごめんなさい……」

 ショールの下で、アイリーン様は肩を震わせていた。

(なんで……)

 なんで気づけなかったのだろうか。

 その色の瞳の人に、会ったではないか。

 夢か現実かはどうでもいい。

 でも、わたしはその人を知っていたではないか。

「アイリーン様……ごめんなさい……」

 わたしは彼女にしがみつくように抱きつき、泣き続けるしかできなかった。

 大切な人を傷つけてしまった。

 それが、とてもつらかった。