そっと隠していた一冊の書籍を取り出す。
『王宮浪漫日和
〜怪盗モーヴ、今宵も参上〜』
本当は捨てようと思っていた。
キルギーさんは怪盗バロニスの偽物だったということは王宮内にも広がっていたし、本物の怪盗バロニスは風評被害というか、いい迷惑としか言えない事件であったけど、未だにその名を聞くと震え上がるわたしがいる。
シルヴィアーナ様がどのように捉えられていたかはわからないけど、ヘイデン様が助けに行ってくださるまでの間、ずいぶん怖い思いをなさっただろう。
その気持ちは計り知れない。
だから、嫌な思い出を思い起こすものはすべて捨ててしまおうと思った。でも……
「夢か現実か……」
夢の中で見たナイラスでの出来事。
そこで聞いた怪盗バロニスの素顔は、レディ・カモミールの書いた物語の設定によく似ていた。
「これは、夢か、現実なのか……」
わたしはずっと考えていた。
もちろん、大切なことだ。
このことはロジオンにもちゃんと相談した。
もちろんもちろん、隠していたことはとても怒られたし、何そのタイトル!すっごくダサい!とダメ出しのオンパレードで、挙句の果てには誤字脱字までネチネチネチネチと指導を受ける羽目となったのはここだけの話だ。
わたしが、わたしだけが目を通して読むから問題ないのだと言い返してやりたかったが、ロジオンの怒るのもごもっともだったので、大人になってぐっとこらえた。
そして、やっぱりわたしの能力に関係するのだろうという結論になった。
『君が書きたいものを書けばいい』
ロジオンはそう言ってくれた。
『ヘイデン様をこれ以上になくキラキラと言葉で飾り立てた王宮ラブストーリーでも、この上なくダサすぎるタイトルの怪盗の物語でも、君が書くものなら僕も大好きになると思うし、全力で応援するから』と。
ところどころで蹴りを入れたくなるところはあったけど、それは愛情の裏返しと思うことで聞かなかったことにしてあげた。
だから、わたしはこれからも変わることなくレディ・カモミールになり、物語を書き続けることを決めた。
そして、叶うことならば、魔物に対してうまく行かなかったわたしの能力とやらも、少しは実践に使えるようになりたいと思う。
あれから、さらなる結界に加え、王宮から出入りする人間にもずいぶん厳しいチェックが行われることとなったため、夜な夜な抜け出すことのできなくなったヘイデン様はぶつぶつと苦言を繰り返していたほどだ。
そして、ほんの少し、少しずつお心を開き出したというシルヴィアーナ様は、別邸から違う場所へ移されたのだと聞く。
本格的に心のカウンセリングを行われるそうだ。
もちろん、ヘイデン様はこれまたアイリーン様の結界に阻まれてシルヴィアーナ様にお会いすることも敵わないそうで、素敵なお顔が台無しだと言わんばかりにふくれっ面をつくっていたほどだ。
だから、わたしもしばらくは安静にするということで寝込んでいたとはいえ、あの事件以来、シルヴィアーナ様とお会いできておらず、申したいこと、謝りたいことは山ほどあるのに伝えることは叶わず、もやもやとした日々を送っていた。
王宮での暮らしが一転するように変わってしまった。
だけど、それはすべて、何があってもわたしたち王宮内の人間に危害が及ばないようにするため。
近衛団のみなさんも術師のみなさんもずいぶん疲弊しながらも日々の鍛錬に励んでくれているのだという。
だからわたしたち侍女たちも、わたしたちにできることを全力で頑張ろうと決めていた。
『いいですか。今年の星夜祭は、これまでの出来事でお心を痛められた王宮のみなさまのお心を癒してさしあげる。その精神で臨むわよ!』
週末に迫った星夜祭への意気込みも、例年とは違う熱いものが垣間見れたほどだった。
レディ・カモミールの失ってしまった手記は結局戻らなかったけど、わたしは新しいノートに1ページに、ペンを走らせた。
『王宮浪漫日和
〜怪盗モーヴ、今宵も参上〜』
本当は捨てようと思っていた。
キルギーさんは怪盗バロニスの偽物だったということは王宮内にも広がっていたし、本物の怪盗バロニスは風評被害というか、いい迷惑としか言えない事件であったけど、未だにその名を聞くと震え上がるわたしがいる。
シルヴィアーナ様がどのように捉えられていたかはわからないけど、ヘイデン様が助けに行ってくださるまでの間、ずいぶん怖い思いをなさっただろう。
その気持ちは計り知れない。
だから、嫌な思い出を思い起こすものはすべて捨ててしまおうと思った。でも……
「夢か現実か……」
夢の中で見たナイラスでの出来事。
そこで聞いた怪盗バロニスの素顔は、レディ・カモミールの書いた物語の設定によく似ていた。
「これは、夢か、現実なのか……」
わたしはずっと考えていた。
もちろん、大切なことだ。
このことはロジオンにもちゃんと相談した。
もちろんもちろん、隠していたことはとても怒られたし、何そのタイトル!すっごくダサい!とダメ出しのオンパレードで、挙句の果てには誤字脱字までネチネチネチネチと指導を受ける羽目となったのはここだけの話だ。
わたしが、わたしだけが目を通して読むから問題ないのだと言い返してやりたかったが、ロジオンの怒るのもごもっともだったので、大人になってぐっとこらえた。
そして、やっぱりわたしの能力に関係するのだろうという結論になった。
『君が書きたいものを書けばいい』
ロジオンはそう言ってくれた。
『ヘイデン様をこれ以上になくキラキラと言葉で飾り立てた王宮ラブストーリーでも、この上なくダサすぎるタイトルの怪盗の物語でも、君が書くものなら僕も大好きになると思うし、全力で応援するから』と。
ところどころで蹴りを入れたくなるところはあったけど、それは愛情の裏返しと思うことで聞かなかったことにしてあげた。
だから、わたしはこれからも変わることなくレディ・カモミールになり、物語を書き続けることを決めた。
そして、叶うことならば、魔物に対してうまく行かなかったわたしの能力とやらも、少しは実践に使えるようになりたいと思う。
あれから、さらなる結界に加え、王宮から出入りする人間にもずいぶん厳しいチェックが行われることとなったため、夜な夜な抜け出すことのできなくなったヘイデン様はぶつぶつと苦言を繰り返していたほどだ。
そして、ほんの少し、少しずつお心を開き出したというシルヴィアーナ様は、別邸から違う場所へ移されたのだと聞く。
本格的に心のカウンセリングを行われるそうだ。
もちろん、ヘイデン様はこれまたアイリーン様の結界に阻まれてシルヴィアーナ様にお会いすることも敵わないそうで、素敵なお顔が台無しだと言わんばかりにふくれっ面をつくっていたほどだ。
だから、わたしもしばらくは安静にするということで寝込んでいたとはいえ、あの事件以来、シルヴィアーナ様とお会いできておらず、申したいこと、謝りたいことは山ほどあるのに伝えることは叶わず、もやもやとした日々を送っていた。
王宮での暮らしが一転するように変わってしまった。
だけど、それはすべて、何があってもわたしたち王宮内の人間に危害が及ばないようにするため。
近衛団のみなさんも術師のみなさんもずいぶん疲弊しながらも日々の鍛錬に励んでくれているのだという。
だからわたしたち侍女たちも、わたしたちにできることを全力で頑張ろうと決めていた。
『いいですか。今年の星夜祭は、これまでの出来事でお心を痛められた王宮のみなさまのお心を癒してさしあげる。その精神で臨むわよ!』
週末に迫った星夜祭への意気込みも、例年とは違う熱いものが垣間見れたほどだった。
レディ・カモミールの失ってしまった手記は結局戻らなかったけど、わたしは新しいノートに1ページに、ペンを走らせた。