「あああっ、勇者様方……今宵も、ありがとうございます!!」
どこからともなく現れたのはこの街の人間たちなのだろう。
口々に勇者と巫女に感謝の言葉を述べている。
一緒にここに存在しているわたしのことなんて眼中にもない様子だ。(まぁ、慣れっこだからいいけどね)
「いえ、それが俺たちの役目ですから」
勇者は薄い緑の瞳を柔らかく細めた。
(ああ、グレイス様の瞳の方が濃い色ね)
なぁんで思ってしまうのは、職業病なのだろう。
人様の容姿ばかり見てしまって、その際の表現に最も合う言葉を探している。
そんなこんなで普段はあまり人様と触れ合うことがないだけとても新鮮な機会でもあった。
「ねぇねぇ、ママぁ~、もうお外に出てもいい?」
小さな女の子が母親のスカートを引っ張り、愛らしい声を出す。
「まだ何が起こるかわからないから、もう少し中で様子を見たほうがいいと思うわ」
「ええ〜、あたしたちがお迎えしてあげないと、バロニス様が迷っちゃうじゃないのぉ!」
「そうねぇ……」
「えっ!」
そんな微笑ましい会話だったのに、それを遮るようにわたしは割り込んでしまう。
今、その名前はトラウマのひとつだ。
「ば、バロニス様って……」
それでも勇気を振り絞り、その名を口にする。
魔物の本拠地にあの男も帰ってきて、なおかつこの街ではいい顔をしてるしてるとでもいうの?
考えただけでもぞっとする。
「なんでも、この街に物資を届けてくれる謎のお助けキャラらしいのよね」
「えっ? お助け……?」
「あ、こっちの世界ではお助けキャラって言わないのか。なんて言ったらわかるだろう? 魔物に襲われた街だったり、生活能力が伴っていなかったり、そんな街へ有志で支援を行っているらしいの。シルクハットにタキシード姿のわけわからない姿なんだけどね……」
ミコトがなにやらぶつぶつ言いながらも説明をしてくれる。
言っていることは理解できたのだけど、本当にそれがわたしの知るそのわけのわからない姿の男のことなのだろうか?
名前とスタイルだけ同じで、別人なのだろうか?
それともいざというとき信者が作れるように、偽善者ぶって活動をしているとか?
いずれにせよ、その男が今夜も来るであろうことは間違いなかった。
「だ、大丈夫なんでしょうか?」
思わず聞いてしまう。
しかしながら、さすがに自分を襲ってきた人間はその人なのだと言うわけにもいかない。
「俺たちも待機していますから」
「そうよ。悪意のあるものは弾き飛ばせるようにわたしも対策は練っているのよ」
たしかに、勇者と巫女という絶対的ポジションにあり、魔物さえも虫けらのように軽々しく扱うおふたりだけに、何かあっても大丈夫な気はしたけど、あまりの偶然が必然に思えてならない。
加えて、ある怪盗の物語と設定と似ている気もするのだ。
確実に油断はならない。
「わ、わたしも見張らせてもらうわ」
正直なところ、二度と会いたくないし、名前さえも聞きたくない。
考えるだけで恐怖心を与えてくるその存在だけど、いたいけなる子供が関わるとなると別だ。
「いや、ノエルさんは怪我をしているようだし、まずは室内で手当をしてもらって休んだほうがいいわよ」
言われてみるとそうなのだけど、一日中気を張って起きていた分、あたたかい室内に行って、気を緩めたらすぐにでも眠ってしまいそうだ。そんな気がする。
どこからともなく現れたのはこの街の人間たちなのだろう。
口々に勇者と巫女に感謝の言葉を述べている。
一緒にここに存在しているわたしのことなんて眼中にもない様子だ。(まぁ、慣れっこだからいいけどね)
「いえ、それが俺たちの役目ですから」
勇者は薄い緑の瞳を柔らかく細めた。
(ああ、グレイス様の瞳の方が濃い色ね)
なぁんで思ってしまうのは、職業病なのだろう。
人様の容姿ばかり見てしまって、その際の表現に最も合う言葉を探している。
そんなこんなで普段はあまり人様と触れ合うことがないだけとても新鮮な機会でもあった。
「ねぇねぇ、ママぁ~、もうお外に出てもいい?」
小さな女の子が母親のスカートを引っ張り、愛らしい声を出す。
「まだ何が起こるかわからないから、もう少し中で様子を見たほうがいいと思うわ」
「ええ〜、あたしたちがお迎えしてあげないと、バロニス様が迷っちゃうじゃないのぉ!」
「そうねぇ……」
「えっ!」
そんな微笑ましい会話だったのに、それを遮るようにわたしは割り込んでしまう。
今、その名前はトラウマのひとつだ。
「ば、バロニス様って……」
それでも勇気を振り絞り、その名を口にする。
魔物の本拠地にあの男も帰ってきて、なおかつこの街ではいい顔をしてるしてるとでもいうの?
考えただけでもぞっとする。
「なんでも、この街に物資を届けてくれる謎のお助けキャラらしいのよね」
「えっ? お助け……?」
「あ、こっちの世界ではお助けキャラって言わないのか。なんて言ったらわかるだろう? 魔物に襲われた街だったり、生活能力が伴っていなかったり、そんな街へ有志で支援を行っているらしいの。シルクハットにタキシード姿のわけわからない姿なんだけどね……」
ミコトがなにやらぶつぶつ言いながらも説明をしてくれる。
言っていることは理解できたのだけど、本当にそれがわたしの知るそのわけのわからない姿の男のことなのだろうか?
名前とスタイルだけ同じで、別人なのだろうか?
それともいざというとき信者が作れるように、偽善者ぶって活動をしているとか?
いずれにせよ、その男が今夜も来るであろうことは間違いなかった。
「だ、大丈夫なんでしょうか?」
思わず聞いてしまう。
しかしながら、さすがに自分を襲ってきた人間はその人なのだと言うわけにもいかない。
「俺たちも待機していますから」
「そうよ。悪意のあるものは弾き飛ばせるようにわたしも対策は練っているのよ」
たしかに、勇者と巫女という絶対的ポジションにあり、魔物さえも虫けらのように軽々しく扱うおふたりだけに、何かあっても大丈夫な気はしたけど、あまりの偶然が必然に思えてならない。
加えて、ある怪盗の物語と設定と似ている気もするのだ。
確実に油断はならない。
「わ、わたしも見張らせてもらうわ」
正直なところ、二度と会いたくないし、名前さえも聞きたくない。
考えるだけで恐怖心を与えてくるその存在だけど、いたいけなる子供が関わるとなると別だ。
「いや、ノエルさんは怪我をしているようだし、まずは室内で手当をしてもらって休んだほうがいいわよ」
言われてみるとそうなのだけど、一日中気を張って起きていた分、あたたかい室内に行って、気を緩めたらすぐにでも眠ってしまいそうだ。そんな気がする。