どうせ書くのなら恋愛小説を書きたいから、どちらかといえば微笑ましい恋物語を見てみたい。

 ファンタジーが好きだというシルヴィアーナ様のためにファンタジー作品にも挑戦を始めたけど、さすがに危険な出来事を実際に追体験をしてまで臨場感を表現したいとは思っていない。

 怪盗に捕まったと思ったら、実は城内の人間を操って侵入してきた魔物(しかもそれが術師とあれば、結界だって崩壊し放題じゃないの!)だっただなんて、なかなかできない、そしてしたくない経験でしかない。

 脇役(モブ)なら脇役(モブ)らしく、もっとあっさりやられて、『城内初の被害者は名もなき脇役侍女(モブキャラ)』というワンパターンな展開に持ち込まれなかっただけ有り難いのだけど、今回の出来事はわたしにとってトラウマレベルで恐怖しかない最悪な出来事だった。

 近衛団が現れ、そして順に術師も現れる。

 魔物は恐ろしいものだとわかっているが、こんなにも心強い面々が集まったのであればもう大丈夫だろう。

 果たしてどうやって逃げ出そうか、などとわたしはそんなのんきなことを考えていた。

 じりじりと距離を取って近衛団がなかなか攻撃に出られないのは、わたしという人質のせいだろう。もしくは魔物が操るキルギーに攻撃をする隙がないのか。

 一秒が永遠に感じられるほど、長い時を経て、対峙している。

 そこに遠慮なく、そして荒々しい勢いで飛んできたのは、真っ赤な光だった。

「バカね」

 その凛とした声にはっとする。

「わたしがいないからと、油断をしたのかしら。その子に手を出したことをあの世で後悔することね」

(アイリーンさま!)

 これ以上に心強いことはない。

 もうもらったも同然!と言わんばかりに、わたしは心のなかでガッツポーズを決めて、その赤い光を眺める。

 赤い光というよりも、リボンのようだった。

 ヒラヒラとしていて、まるで生きているようなその光はキルギーに巻き付いている。

 どうやら、わたしごと捕獲をしたようだ。

(あ、アイリーン様ったら……)

 あまりに大胆不敵だ。

 彼女にかかればもう問題ないわ。

 心から信頼する彼女の到着に安堵をした、その途端、さりげなくもまた、くくくっと笑うキルギーの声が聞こえたのだ。

(えっ!)

 気づいたときには、視界が思いっきり揺れて、ノエル!とわたしを呼ぶ声がしたものの、そのあのはどうなったかわからないくらい勢いよく、暗闇へ……いいえ、別空間へと移動させられたような気分だった。

(う、噓でしょ……)

 不敵な男の笑い声だけは脳内に響いていた。

 いつまでも、いつまでも。