「ねぇ、ロジオン……」
触れかけてやめた。
話し終える前から明らかに彼の表情がいつもと違う色を浮かべていたから。
「そ、そうよね。ごめんなさい」
触れてしまうと、見えてしまうかもしれないからだ。
彼にだって知られたくない過去のひとつやふたつだったあるはずだ。無神経だった。
もしかすると、いや、もしかしなくてもこれはわたしの能力の一部なのだろう。
見えてしまった世界が現実なのかどうかはわからないけど、もしそれが本当の世界なら、わたしは踏み込んではいけない人の領域まで踏み込もうとしていることになる。
「気にしてないよ」
ぱっと逆にロジオンから手を掴み返されて顔をあげる。
「少し驚いただけだよ。それがもしもレディ・カモミールの能力ならすごいなぁと思って」
「ロジオン……」
「まるで君の物語の歌唄い、グランベールのようだなって」
(バカね……)
一瞬彼が見せた表情は『拒絶』だった。
(だてに人の顔色をうかがって生きてないわよ)
だけど、無理して笑ってくれている。
気にするなとこうして握ってくれた手はとてもあたたかくてわたしの心にじわじわと染み渡る。
「書くのをやめる必要はないよ」
「え?」
「もしも君の言うとおり、レディ・カモミールが人の感情に入り込んでその思い出を垣間見て、それを参考に物語にしているのかもしれない。でも根拠はない。それに、君の作品を今か今かと待ち続けて笑顔になれる人がたくさんいるのも事実だよ」
「ロジオン……」
「現に僕は毎日が楽しくなった。次はどんな展開が待っているんだろう、とか。すべてはよく知る君が、君の生活の中から試行錯誤を繰り返して作っている物語だからね。それをそばで見ていられるのはとても嬉しいんだ」
「ああ、ロジオン……」
今までバカにして悪かったわ。
なんて、なんて温かい言葉なの。
わたしは思わず胸が熱くなり、思わず彼に抱きついてしまう。
「ちょ、ちょっと、ノエル!」
「ありがとう、ロジオン! ありがとう!」
嬉しかった。
そう言ってくれて。
嬉しかった。
拒絶をしないでいてくれて。
その時、脳裏にわずかに写った光景があったけど、わたしはかたく瞳を閉じた。
触れかけてやめた。
話し終える前から明らかに彼の表情がいつもと違う色を浮かべていたから。
「そ、そうよね。ごめんなさい」
触れてしまうと、見えてしまうかもしれないからだ。
彼にだって知られたくない過去のひとつやふたつだったあるはずだ。無神経だった。
もしかすると、いや、もしかしなくてもこれはわたしの能力の一部なのだろう。
見えてしまった世界が現実なのかどうかはわからないけど、もしそれが本当の世界なら、わたしは踏み込んではいけない人の領域まで踏み込もうとしていることになる。
「気にしてないよ」
ぱっと逆にロジオンから手を掴み返されて顔をあげる。
「少し驚いただけだよ。それがもしもレディ・カモミールの能力ならすごいなぁと思って」
「ロジオン……」
「まるで君の物語の歌唄い、グランベールのようだなって」
(バカね……)
一瞬彼が見せた表情は『拒絶』だった。
(だてに人の顔色をうかがって生きてないわよ)
だけど、無理して笑ってくれている。
気にするなとこうして握ってくれた手はとてもあたたかくてわたしの心にじわじわと染み渡る。
「書くのをやめる必要はないよ」
「え?」
「もしも君の言うとおり、レディ・カモミールが人の感情に入り込んでその思い出を垣間見て、それを参考に物語にしているのかもしれない。でも根拠はない。それに、君の作品を今か今かと待ち続けて笑顔になれる人がたくさんいるのも事実だよ」
「ロジオン……」
「現に僕は毎日が楽しくなった。次はどんな展開が待っているんだろう、とか。すべてはよく知る君が、君の生活の中から試行錯誤を繰り返して作っている物語だからね。それをそばで見ていられるのはとても嬉しいんだ」
「ああ、ロジオン……」
今までバカにして悪かったわ。
なんて、なんて温かい言葉なの。
わたしは思わず胸が熱くなり、思わず彼に抱きついてしまう。
「ちょ、ちょっと、ノエル!」
「ありがとう、ロジオン! ありがとう!」
嬉しかった。
そう言ってくれて。
嬉しかった。
拒絶をしないでいてくれて。
その時、脳裏にわずかに写った光景があったけど、わたしはかたく瞳を閉じた。