はっとすると、いつの間にか目の前に大きな扉があって、未だに慣れないのだけどわたしはそこに手をかける。
扉を開くとぶわっと光の粒子がわたしのまわりを取り囲み、どこにどう繋がっているのかわからないまま足を踏み入れると、視界が徐々にはっきりしてくる。
そして、ようやくそこはヘイデン様の書庫の中であることを理解する。
振り返っても今の今まで歩んできた道筋は姿を消し、影も形もなくなっている。
とはいえ、入室するたびに圧倒されてしまって口を大きく開けてついつい見渡してしまう書庫の中では、ほとんど振り返ることなどないのだけど、改めて考えてみると不思議なものである。
「はぁぁぁぁ! 今日は何を読もうかしら」
アイリーン様に案内された中央のテーブルへと向かう。
そこには人ひとり座ることのできる席が用意されていて、テーブルには小さなベルが乗っている。
何かあったらこのベルを鳴らしてほしいとアイリーン様に教わった。
この場所がヘイデン様のお住まいのどのあたりに位置するのかはさっぱりわからないけど、鳴らす日が来ないことを願って、わたしはゆっくり腰を下ろす。
座ったと同時に、ふわっと現れたのは手のひらサイズの砂時計だ。
ピンク色の砂がサラサラ流れ落ちるそれはやっぱりアイリーン様の魔力が込められていて、落ちきってしまう前に帰りなさいとアイリーン様とお約束している。
ようするにこれは、日付が変わるまでの時間を表している。
「何から何まで可愛いわね」
その素晴らしいセンスに脱帽しながら、砂時計もテーブルに乗せる。
上から下へとキラキラ瞬きながら流れていくそれは、じっと見ていたらいつまでも見ていられそうだ。そんな魅力を持っている。
「そ、そんなことをしている場合じゃないわ!」
時間は限られている。
体力もそこまで長くは保たない。
だけど、その限界の中でも読みたいと思う気持ちがあるのだ。
こんな貴重な機会はいつまで続くかわからない。それだけに、一ページでも多く様々な文献に目を通したい。
先程までの悩みなんてどこへやら、わたしは下手をするとレディ・カモミールであることさえ忘れてしまうほど本に没頭してしまうことが増えた。
楽しい。楽しすぎるのだ。
ここは、楽園だ。
足を踏み入れた途端に時間が止まる。
ここは、宝島だ。
先人者たちが書きとどめた彼らの記憶が詰まっている。
ほとんどの答えはここに記されている。
わたしがこの目で見ることは叶わない出来事であっても、書籍を手にするだけでまるでその場で見たような感覚になれるのだ。
「ああ……」
だからこそ、やっぱり悲しい気持ちになる。
わたしも誰かが目にしてくれたときにわくわくと心ときめかせてくれるようなそんな何かが書きたかったのに。
もしかしたらもう続けられないかもしれないと思うと泣きそうだった。
「来ているのなら声をかけてくれればよかったのに」
「えっ!」
後方から聞こえる声にびくっと反応する。
「お茶やお菓子を準備したのに」
なぜ……とは問わない。
だって、もともとここはこのお方の所持されている場所なのだし。
「こんばんは、ヘイデン様。いつもとても楽しい時間を過ごしています。」
彼はそう言ってもらえたら貸したかいがあったよって柔らかな笑みを浮かべてくれる。
(ああ……)
いろんな気持ちが入り混じって、わたしはうまく笑えそうにない。それでも、
「これが先日、伯父が手に入れてくれた作品だよ」
気にすることなく接してくれるこの第四王子様に心から感謝した。
扉を開くとぶわっと光の粒子がわたしのまわりを取り囲み、どこにどう繋がっているのかわからないまま足を踏み入れると、視界が徐々にはっきりしてくる。
そして、ようやくそこはヘイデン様の書庫の中であることを理解する。
振り返っても今の今まで歩んできた道筋は姿を消し、影も形もなくなっている。
とはいえ、入室するたびに圧倒されてしまって口を大きく開けてついつい見渡してしまう書庫の中では、ほとんど振り返ることなどないのだけど、改めて考えてみると不思議なものである。
「はぁぁぁぁ! 今日は何を読もうかしら」
アイリーン様に案内された中央のテーブルへと向かう。
そこには人ひとり座ることのできる席が用意されていて、テーブルには小さなベルが乗っている。
何かあったらこのベルを鳴らしてほしいとアイリーン様に教わった。
この場所がヘイデン様のお住まいのどのあたりに位置するのかはさっぱりわからないけど、鳴らす日が来ないことを願って、わたしはゆっくり腰を下ろす。
座ったと同時に、ふわっと現れたのは手のひらサイズの砂時計だ。
ピンク色の砂がサラサラ流れ落ちるそれはやっぱりアイリーン様の魔力が込められていて、落ちきってしまう前に帰りなさいとアイリーン様とお約束している。
ようするにこれは、日付が変わるまでの時間を表している。
「何から何まで可愛いわね」
その素晴らしいセンスに脱帽しながら、砂時計もテーブルに乗せる。
上から下へとキラキラ瞬きながら流れていくそれは、じっと見ていたらいつまでも見ていられそうだ。そんな魅力を持っている。
「そ、そんなことをしている場合じゃないわ!」
時間は限られている。
体力もそこまで長くは保たない。
だけど、その限界の中でも読みたいと思う気持ちがあるのだ。
こんな貴重な機会はいつまで続くかわからない。それだけに、一ページでも多く様々な文献に目を通したい。
先程までの悩みなんてどこへやら、わたしは下手をするとレディ・カモミールであることさえ忘れてしまうほど本に没頭してしまうことが増えた。
楽しい。楽しすぎるのだ。
ここは、楽園だ。
足を踏み入れた途端に時間が止まる。
ここは、宝島だ。
先人者たちが書きとどめた彼らの記憶が詰まっている。
ほとんどの答えはここに記されている。
わたしがこの目で見ることは叶わない出来事であっても、書籍を手にするだけでまるでその場で見たような感覚になれるのだ。
「ああ……」
だからこそ、やっぱり悲しい気持ちになる。
わたしも誰かが目にしてくれたときにわくわくと心ときめかせてくれるようなそんな何かが書きたかったのに。
もしかしたらもう続けられないかもしれないと思うと泣きそうだった。
「来ているのなら声をかけてくれればよかったのに」
「えっ!」
後方から聞こえる声にびくっと反応する。
「お茶やお菓子を準備したのに」
なぜ……とは問わない。
だって、もともとここはこのお方の所持されている場所なのだし。
「こんばんは、ヘイデン様。いつもとても楽しい時間を過ごしています。」
彼はそう言ってもらえたら貸したかいがあったよって柔らかな笑みを浮かべてくれる。
(ああ……)
いろんな気持ちが入り混じって、わたしはうまく笑えそうにない。それでも、
「これが先日、伯父が手に入れてくれた作品だよ」
気にすることなく接してくれるこの第四王子様に心から感謝した。