「紬乃!!」
公園に到着したとき、あたしを見た藍がそう叫んで、何で電話繋げたままにしなかったの、迎えに行ったのに、と彼は声を荒げたが、あたしが泣いているのを見て、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしながらあたしを抱きしめた。
「藍、どういうことなの? 千歳くんと藍が会ったってこと? あたし、もう」
「紬乃、落ち着いて」
落ち着けるわけなんかなかったけれど、あたしは彼に抱かれたまま、声を押し殺して、首を縦に振った。
やがて、藍が口を開く。
「……家に帰る途中、連絡先を交換したことなんてないのに、千歳から連絡が来たんだ」
坂下ちゃん経由で、藍の連絡先を知ったのは明らかだったので、すぐに納得して、うん、と頷く。
「21時に、誰にも言わずに公園に来いって。そうじゃなければ、紬乃のこと襲うからって。まさかとは思ったけど、そのあと、紬乃の家の外観の写真が送られてきた」
ガン、と頭に強い衝撃が走った。
あたしは何も言えずに黙っていた。
藍から放たれる言葉は相変わらず物騒だったけど、それとは裏腹に頭に添えられる藍の手の体温はあたたかい。
相変わらず恐怖が頭いっぱいに渦巻いていたけれど、藍に抱きしめられているおかげで、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
思ったよりもショックを受けていない自分に驚いた。
「だから連絡もとらずに、千歳くんと会ったってこと? そのあと何をされたの?」
「……紬乃のこと」
「え?」
「紬乃のこと、話された」
落ち着きを取り戻したはずの思考が今度は逆につめたくなっていって、壊死しそうな感覚とともに、沈んでいく。
「千歳がさ、多分、あることないこと、適当に喋りはじめたんだ。紬乃は浮気してる、とか、裏で後輩を脅してる、とか、なんか、そういう嘘みたいなの。しまいには、紬乃とキスした、って得意げな表情で、紬乃はもう、俺のものだからって言ってて。それで、まさかとは思ったんだけど、なんか、色々言われて、訳わかんなくなって。……俺、紬乃のこと信じて良いんだよな?」
……なんだ、そういうこと。
抱きしめられた腕の中、彼の表情は見えなかったし、あたしの表情も彼には見えていなかった。
いつの間にか、取り乱しているのはあたしじゃなくてむしろ藍の方になっていて、あたしの思考はいたって冷静だった。
あたしはすこし考えたあと、自然に、言葉を放つ。
こういうとき、どうしたら良いのか。
自然と頭は冴えていた。
全身に血が巡る。
あたしにとっての、藍にとっての正解。それをあたしは、なぜか全てわかっていた。