例によって、録音アプリを起動させてから、千歳色に電話をかけた。


 彼が電話に出てほしい気持ちと、出てほしくない気持ちが、半分ずつあった。


 だけど、千歳色が安否確認に反応していない、だなんて事実が、なんだか偶然のようには思えなくて、繰り返されるコールの音が、死刑宣告のようにも感じられるくらいに重い。


 何回も何回も、乾いたコール音が鼓膜を響かせて、頭が痛くなりそうになったとき、ふいに、音が鳴り止む。



『もしもし。どうしたの?』



 いつもよりも遅かった電話への反応すら、気味が悪かった。

 恐怖を腹の底に押し留める。



「千歳くん、」

『なあに?』

「聞きたいことがあるの」



 大きく息を吸った。



「行方不明になった子って、誰だと思う?」



 そんな含めた言い方をして、彼の様子を窺ったのに、彼はそれすらも見抜いたような口調で続ける。



『織方さん、まさかそんなことを聞きに、電話してきたわけじゃないだろう?』

「……」

『行方不明になったのは、坂下あかりさんだそうだね。公表されているみたいだし』



 向こう側で、千歳色がくすくすと笑っている。何が面白いのだろうか。

 駄目だ。言葉選びだなんていう小手先の工夫で敵う相手じゃない。



「質問変える。千歳くん、あなた、今回のことに何か関係してる?」

『してるって言ったら、どうする?』



 あたしは黙り込んだ。

 千歳色がこの件に絡んでいたとしても、あたしには確かに、何もできることがなかったからだ。


 それにさ、と彼が続けて声を発する。



『俺も、織方さんも、成田も絡んでるとしたら、どうする?』