何か、とんでもなく恐ろしいことが起きているのは確実だった。
藍が受けたストーキングに、行方不明になった坂下ちゃん。
次に狙われるのは、とか、考えると途端に心拍があがって、苦しくなる。
「今わかってるのは、坂下ちゃん、だけ?」
何かを確かめるために藍に尋ねると、藍はあたしの肩を抱いたまま、ああ、と息を漏らした。
「昨日の安否確認、3年生でひとりだけ、回答がなかった奴がいるらしい」
息をのんだ。
だれ、としずかに聞くと、藍はすこし顔を顰めながら、あたしの肩に回す手をすこし強めた。
「千歳色、だって」
千歳色。
繋がりそうで繋がらない点と点が、ふつりふつりと浮かび上がっていて、それでも、彼の名前には圧倒的な存在感があって。
「まあでも、1年とかにも確認できてない奴、いるみたいだし」
藍にはそうやってなだめられたけれど、心臓の拍動はおさまる気配を見せないし、それに、なんだか嫌な汗が流れてきた。
「ごめん、あたし、トイレ行ってくる」
後ろからかけられる、大丈夫? という心配の声には、多分、と答えておいて、あたしはそばにあったスマホを掴んで、1階のトイレに向かった。
なんで部屋のある2階のトイレじゃなくて、1階のトイレを選んだかというと、あたしの目的は、排泄でもなく、嘔吐でもなかったからだ。
ここだったら、藍に声が届くことはないだろうという保証を胸に抱いて、あたしが開いたのは、メッセージアプリの、ブロックリスト。
千歳色の名前を見つけて、彼を連絡先一覧の画面に戻した。