危ないから、やめて。
そう制止した声は聞き入れてもらえず、そのうち通話の繋がるスピーカーの向こう側から、外の空気を感じた。
藍の家からあたしの家まで、歩いて30分くらい。
電話越しに聞こえる音からして藍は走っているだろうから、多分15分くらいであたしの家に着くのだろう。
15分くらいなら、なんていう油断だって本当はしちゃいけないんだろうけど、藍が来てくれるって言ってくれるのは、嘘みたいに嬉しかった。
きっとお母さんにバレたら怒られるだろうけど、それでも、今のあたしの不安とか恐怖とかを抱きしめてくれるのは、藍しかいなかった。
そのうち、もう着く、という一声で繋がった電話が切れて、玄関から顔だけ出して家の周りを見渡すと、丁度角のところから藍がこちらに向かってくるところだった。
「危ないじゃん、ばか」
「紬乃、会いたかった」
あたしの小言なんて向こう側に通り過ぎて、藍は周りの目なんて気にも留めずにあたしを抱きしめようとするから、
せめて中に入ろうっていって、あたしは誰もいない家に藍をあげた。
どうしようもない恐怖心はいつになっても拭いきれなくて、玄関のドアの鍵と、部屋の鍵、窓の鍵を何度も確認した。
全部の確認が終わった後、そのまま床に座り込むと、藍があたしを抱きしめた。
体重を彼に預けると、少しずつ、心のバランス感覚が元に戻っていくような気がした。
しばらくそのまま、彼にもたれかかっていると、彼はあたしの髪の毛にキスをする。
「不安を煽るようなこと言ったら、申し訳ないんだけど」
藍があたしの頭をそっと撫でながら、あくまで事実確認、という体で続ける。
どうしたの、と問うと、彼は声をひそめて、できるだけ優しい声を発した。
「紬乃は、誰が行方不明になったか聞いた?」