真昼と一緒に歩きながら、日菜の話だとか、自分たちの彼氏の話だとか、あるいは噂話だとかをひとしきり話し終えたころ、ちょうど駅に着いたので電車に乗る真昼と別れて自宅に向かった。
真昼と話をしながらも、頭の中を埋め尽くしていたのは藍のことだった。
どうしても会いたい、って、どういうことなんだろう。
ただの愛の言葉なら嬉しいのだけれど、最近色々なことがあったせいか、余計なことを考えてしまうから困る。
家に帰って荷物を部屋に放り投げ、棚の上に置いてある鏡を見ながらリップを塗り直していると、もう着く、と藍からメッセージが届いた。
部屋のある2階から1階に降りたとき、ちょうどインターフォンが藍の来訪を告げたので、あたしはそのまま彼を出迎えた。
「藍、ごめんね、待っててくれたのに」
「全然良いよ。日菜ちゃん大変そうだったけど、あれ何だったの?」
「彼氏と別れたんだって」
なるほどね、と藍が靴を脱ぎながら言った。
電話越しに言われた、どうしても会いたかった、というセリフに不穏さを感じた割に、藍の態度はいつもと変わらないように思えた。
だけど、ふたりで部屋に入って、あたしが内側から鍵をかけたと同時に、彼が立ったまま強く、あたしを抱きしめた。
藍の制服のシャツから香る柔軟剤と、藍自身が発している香りが交わった、彼そのものの香りが鼻腔を満たす。
「紬乃、」
抱き潰されそうなくらい力強い腕に身体を強く押し付けられたせいで、胸いっぱいに苦しさが広がった。
普段されないくらいに強引な手つきに抱かれるのは慣れていなくて、心配するのは藍の制服に化粧がついてしまうんじゃないかとか、そういうこと。
けれどそんな状態が続くと、いよいよ呼吸が細くなり始めてきたので、
あたしは藍の胸をトントン、と叩きながら訴える。
「ちょ、くるしっ」
あたしの苦痛の悲鳴に彼は少し我に返って、ごめん、と言ったけれど、彼があたしを導いた先はベッドだった。