時間の流れ、というものはひどく残酷で、あれからしばらく経つと、千歳色のスマホ越しに見た例の犯行場面も、少しずつ記憶から薄れ始めていた。


 あんなにショッキングだった光景も、まあなんていうか、そんなこともあったな、みたいな。


 そんなふうに記憶を曖昧にするのは、あたしが冷たいからなのか、そもそも人間の頭がそういうふうにできているからなのか、どちらなのだろうか。


 とくにあれ以降、千歳色から連絡が来ることもなくて、あたしの日常は、少しずつ平和なものに戻っていくんだと、そう思っていた。


 帰りのSHRが終わって教室内に喧騒が生まれたころ、何だか眠気がひどかったあたしは、あくびを押し留めながら伸びるように机に突っ伏した。



「紬乃ちゃん」



 かけられた声をうざったく感じながらその方向を向くと、坂下ちゃんが教室の扉を指さしているのがわかった。



「成田くんが呼んでる」



 反射的にそちらを見ると、帰る準備万端の藍があたしにひらひらと手を振っているのが見えたので、あたしは慌てて、荷物をまとめて藍のところに駆け寄った。


 後ろから、紬乃ばいばーい、という真昼たちのとぼけた声が聞こえたので、あたしも彼女たちに、じゃーね、と声を張り上げた。


 あたしよりも頭2つ分背の高い藍の隣に並ぶと、藍は、帰ろう、といって歩き始めた。


 体育祭の準備期間のときとはうってかわって、最近はほぼ毎日、藍と肩を並べて下校している。


 学校帰りに寄り道をしたりだとか、2人であたしの部屋で過ごしたりだとか、最近はそんな感じで、穏やかながらに楽しい放課後を過ごしている。

 あたしはとにかく藍と一緒にいられるのが嬉しかったから、徐々に真昼たちと放課後過ごすことも少なくなっていた。

 その分、彼女たちも自分の彼氏と各々過ごしているのだろう。




 そんなことを考えながら歩いていると、藍の方から、家に行っていい? と尋ねられて、断る理由なんてひとつもなかったから、良いよって言った。