ドライヤーをかけながら何とか気分を切り替えようとしたけれど、ずっと千歳色から送られてきたあの写真がフラッシュバックするせいで、思わず手ぐしの力が強くなり、頭皮を必要以上に掻いてしまった。


 後輩、という存在は、本当に鬱陶しい。


 格好良い先輩がいれば、その相手に彼女がいようが関係なく、推し、とかいって眺め、崇め、憧れるのだ。


 推しという言葉は大嫌い。そんな安易な言葉で、相手への好意を面白おかしく覆い隠すことは、くだらないし、ばかげている。


 推しという言葉を使えば、何をしても許されると思っているんだ、ああいう人種は。

 そんな傲慢さを併せ持つ後輩という存在が、本当に気持ち悪くて、反吐が出そうになる。



 考えたら無性にむかむかしてきて、手早くドライヤーを終えたあたしは、今度はスマホの画面に指を滑らせ、それを思い切り、耳に押し付けた。


 発信の相手は、千歳色。


 あの写真が一体何なのか、何のためにあんなことをしたのか、聞きたいことがたくさんあった。


 コール3回のあとに聞こえた千歳色の声は、心なしか楽しそうに聞こえて不快だった。



『織方さん、どうしたの?』



 あたしは思い切り息を吸う。



「あれ、どういうつもり? あんなの送りつけられて、あたし、どうしたらいいわけ?」



 一息で、苛立ちに任せていつもより荒い口調で言い切ったけれど、

 まくし立てるようなあたしの口調に彼が狼狽える様子なんて微塵もなくて、いつも通り穏やかなテンポを纏った千歳色の声色が鼓膜にまとわりついた。



『情報提供のつもりだよ。気をつけた方が良いんじゃないかなっていう、提案』

「気をつけるって、何を」

『……さあ?』



 千歳色からの返答がなんだか要領を得ないので、ますます苛立ってきた。

 スマホを握る手に力がこもる。



「藍が後輩の女と写真撮ってたのはすごく嫌。だけど別に、わざわざ知らせてくれなくても大丈夫だから。あんなの、見たくもないし」

『いいの? 彼女、本気で成田のこと略奪しようとしてるみたいだけど』



 間髪を入れずに放たれたその一言で、心臓がいやな音を立てるのがわかった。