その後、わたしは自分で警察と救急車に電話した。

 都会だったら騒ぎを聞きつけた近所の人が通報するんだろうけど、『お隣さん』が何メートルも離れている田舎では、無理な話だった。
 おじいちゃんとおばあちゃんは病院に運ばれて、わたしと四葉ちゃんも連れていかれた。
 何度も警察の人に話を聞かれたけど、何をどう話したのかは覚えていない。
 警察の人は、ずっと困った顔をしていた。

 朝になると、お父さんとお母さんが車で駆けつけてくれた。二人の顔を見た途端、わたしは気を失い、二日間眠り続けた。
 その間に、四葉ちゃんはさつきおばちゃんとおうちに戻った。報せを受けたさつきおばちゃんが、退院を早めたそうだ。
 わたしも家に帰った。夜でも明るい、熱風がまとわりつく灼熱と冷房の地獄に戻った。泣くほど嬉しかった。

 そうして八月も終わりに近づき、ようやく少し涼しくなった頃、わたしはあの夜の出来事を改めて考えた。

 おばあちゃんは傷口からばい菌に感染して、今も入院中だ。
 おじいちゃんは外傷はすぐに治ったけれど、病院に入れられた。何という病院かは教えてもらえなかった。
 おじいちゃんとおばあちゃんがあんな目に遭ったのを、村の人は、「狸の祟り」だと言っている――らしい。

 でも、とわたしは考える。

 もしも「祟り」なら、轢き殺した――車に乗っていた人間全員に危害を加えるんじゃないだろうか?

 わたしや四葉ちゃんも、標的になるんじゃないだろうか?

 わたしはあの子狸に手を合わせたから許されて、木の実をもらえたけれど――四葉ちゃんは違う。
 赤ちゃんだから? と思ったけれど、おばあちゃんの話では、狸は人間の子どもにも容赦がないらしい。

 ということは。

(考えなくても……分かる)

 狸が祟ったのは、おじいちゃんたちが言った、「あの言葉」のせいだろう。
 狸の気持ちになれば当然だ。ただ歩いていただけなのに轢かれて、あんなことを言われて、挙げ句に足で蹴られて、無惨に殺されたのだから。

 子狸が恨んで当然だ。
 親狸が怒って当然だ。
 狸たちが仕返しして、――当たり前だ。

 こんなことは思いたくないけれど、どうしても思ってしまう。

 わたしたちが襲われたのは、おじいちゃんとおばあちゃんが、『悪い』。

 殺した狸に、「おまえが悪い」なんて――言わなければよかったのに。【了】