「冬、テーブル拭きお願い」

「ん、了解」

更衣室を出ると、叔母さんに布巾を渡された。一つ一つのテーブルを丁寧に拭いて回る。開店まであと三十分。お客さんが来るまでにはいつも通りに戻らなくてはならない。

とりあえずは無心になろう。心を無にしてテーブル拭きをしていれば自然と落ち着くだろう。


そう思っていたのだが。


「……冬、アンタなんか今日変じゃない? 妙にウキウキしてるっていうか、落ち着きがないっていうか」

叔母さんには速攻でバレてしまった。週の半分くらいは会っているだけあって、俺の異変には気づくのが早い。


「うっ、やっぱわかるか?」

テーブルから顔を上げて叔母さんの方を振り向くと、彼女は大きく頷いた。

「今にも走り出しそうな雰囲気だもん。何をそんなに浮かれてんのよ」

「え、まあそれはいろいろと」

「えろえろ? まったく、思春期の男の子は手がつけられないわあ」

「はぁ!? 勝手なこと言ってんじゃねぇ!」

「あはは、顔真っ赤にしちゃってかーわいー。アンタのお母さんもそうだったけど、アンタもピュアだよねー」

叔母さんのこのノリは俺には辛い。悪い人ではないんだけど。あと、どことなく正晴と似たものを感じる。


「で、いろいろって何よ? 体質のことでなんかあったりした?」

からかったあとに真面目に聞いてくる感じもちょっと似ている。なんてそんなことを考えていたら、少し頭が冷えてきた。