「じゃ、本当に帰るな」

俺は改めてというように言った。

それを聞いて、のぞみは少し寂しそうな顔をする。


「次はいつ来られるの?」

そんなことを聞かれたのは初めてで、驚いてしまう。いい兆候には違いないが、随分と突然だったので一瞬幻聴かと思った。


「あー、えっと、次は日曜かな」

今日は金曜日なので、二日後にあたる。今週はいつもより仕事が少ないため、時間の空きは結構あるのだ。


「その日って一日空いてるの?」

「いや、午前はバイト」

「何時に終わる?」

「一時には終わると思うけど。なんで?」

どうしてそんなことを聞くのだろう、と疑問に思い尋ねてみる。

それと同時に目を合わせると、スッと逸らされた。聞かない方が良かったのだろうか。

そう、思ったのだが。


「……秘密!」

フイと背けられた顔は真っ赤に染まっていた。それが憤怒だとか、熱だと勘違いするほど、俺は鈍くはない。

「バイト終わったらすぐ来て!」

つまりは、まあ、のぞみも俺と会うのをとても楽しみにしているわけで。

「約束だからね!」

会えないことに寂しさを感じてくれたりもしているのだ。


これはあまりにも嬉しすぎる。



返事をしない俺を怪訝に思ってか、のぞみが振り返った。
俺は伸びかけていた腕を慌ててしまう。危うくもう一度抱きしめるところだった。今抱きしめてしまったらもう帰れなくなってしまうだろう。


代わりに思いきり笑って答えた。

「わかった、約束する。バイト終わったら直行するから」


のぞみの顔が嬉しそうに緩む。

その表情も、さっきの発言も、纏っている空気でさえ愛おしい。

俺は、大好きだ、と心の中で一言告げた。