「ううっ。うっうぅ」

しゃくりあげる声と鼻を啜る音だけが室内に響く。のぞみの涙で、俺のTシャツが一瞬にして濡れた。

こんな時に思うのも変かもしれないが、愛おしくてたまらなかった。俺との時間を笑顔で過ごすために、これほどの涙を抑えてくれていたことが純粋に嬉しくもあったからだ。とはいえもちろん、辛い気持ちの方が大きかったが。


俺は、ポン、とのぞみの頭に手を置く。そして大事なものを扱うように優しく優しく撫でた。


「冬、くん」

しばらくそうしていると、のぞみは泣き始めてから初めて、はっきりと言葉を漏らした。


「ん、どうした?」

俺は撫でながら聞き返す。彼女はそれに安心したように、小さく息を吐いた。


「……私、ね」

「ああ」

「死にたくない」

「ああ……俺も、死なせたくない」

「ずっと前から死は覚悟してたはずなのに、怖くて怖くてたまらないの」

「うん」

「私、冬くんともっと一緒にいたい」

「俺も、のぞみと一緒にいたいよ」


のぞみが初めて弱い言葉を発した。俺に、弱さを見せてくれた。

抱きしめる力を少し強くする。俺にできることはこれしかない。のぞみもそれに応えるみたいに、俺の背中に腕を回した。細くて小さな腕が、俺に熱を与える。


その後ものぞみは何度も「死にたくない」「冬くんと一緒にいたい」と繰り返した。


「うう、私、死にたくないよぉ」

俺の胸元に顔面を強く押し付けるから、声がくぐもってしまっている。しかし、触れ合った状態の俺にははっきりと聞こえていた。