「その、いつも俺のせいで予定とか決めさせちゃってて迷惑だと思われてると思ったからさ」

素直に思っていることを言うと、正晴は近づけていた顔を離した。多少は気持ちが収まってきたのかもしれない。

「迷惑だったらわざわざこうやって会いに来たりしないし、誘ったりなんかしないから。迷惑な相手に優しくするほど俺はいい奴じゃない」

そう言う正晴の目は残酷そうに見えて、優しさに満ちている。俺はほっとして強ばった体から力を抜いた。

「悪い。たまに無性に不安になるんだ。正晴は俺が一人になるのが可哀想で一緒にいてくれてるんじゃないかって。ほら、お前優しいから」

軽く笑ってみせると、正晴は呆れたようにため息をついた。

「別に俺は優しくないけどね。自分が一緒にいたいと思う人と以外は仲良くしたいと思わないし」

口調が元に戻ってきた。これは機嫌が治った証拠だと思っていいのだろうか。

「まあ、俺の方こそごめん。ちょっと追い詰めすぎたかも。冬すごいビビってたもんね」
「な、ビビってなんかいねーし!」

俺が慌てたように否定すると正晴が吹き出した。

「冬はやっぱり面白いね」

クスクスと肩を震わせながら言われる。その言葉と笑いにはきっとそのままの意味よりもっと深い意味があるのだろう。


「改めて、冬、おはよう」

正晴が優しい笑顔で言った。

「正晴、おはよう」

俺もぎこちないながらも優しめの笑顔で答えた。