「ねぇ、冬くんって将来何になりたいとか考えてる?」

しばらく話をしていると、突然そう聞かれた。答えがパッと出てこないのが寂しい。


「考えてない。つーか、考えられない」

「なんで?」

「俺の体質上何かしようったって限度があるしな。正規雇用とかは望めないし」

「そっか、冬くん仕事できそうなのに勿体ないなぁ」

「そうか? まあ、そもそも中卒じゃあな。そういうのぞみは何に……あ、いや、ごめん」

ついのぞみに聞き返そうとしてしまった。余命わずかな人間にするには酷な質問だというのに。


「あはは、そんなに気にしなくていいよ。むしろサラッと聞いてくれた方が嬉しい」

俺が言おうとしたことはバレバレだったらしい。俺の方が気を遣われてどうするんだか。


「私はね、お嫁さんになりたかったの」

テンプレートでしょ、と笑うのぞみの顔は決して明るくはない。

それに、なりたかったと過去形だったのが辛かった。
彼女は十七歳だから、結婚することができないわけじゃない。でも、言いたいのはそんなことじゃないということは明らかだ。


「いいじゃん、それ。素敵だと思う」

俺にはそれしか言えなかった。応援したくても何もできない。

もし仮にのぞみが俺に好意を抱いていたとしても、結婚することすらできないのだ。

俺の作り笑いでの返事に、のぞみは少し困ったようににこっとした。



その後、嫌な沈黙が流れた。

俺ものぞみもいつものおしゃべりが嘘のように、口を閉ざしていた。