「おい、どうした?」

のぞみの肩に手を乗せ、目線を合わせて尋ねた。涙は止まっているが、その瞳は熱く潤んでいる。

「……なん、でもない」

彼女はそれを隠すように顔を背ける。しかし、声の震えは抑えきれていなかった。

「なんでもないわけないだろ。そんな苦しそうな顔してんのに」
「別に普通だよ」
「そんなに泣きそうな顔してんのに普通なわけあるかよ」
「冬くんには関係ないじゃん! ほっといてよ!」

のぞみは首を振って嫌がった。その態度に俺も引けなくなってしまう。

「関係なくなんてねーよ! 俺はのぞみが……! のぞみのことがっ……」


好き。

そう口から出かけて、慌てて口を押さえた。

わからないのに。わからないはずなのに。なんで勝手に俺の気持ちを無視して行こうとするんだろうか。

「た、大切だから。そ、そう、のぞみのことが大切なんだよ!」

そう言って無理やり誤魔化す。自分でも、痛い誤魔化し方だと思った。

「大切……」

俺の言葉を聞いたのぞみが、真面目な顔をして呟いた。その言葉を咀嚼するように何度も小さく頷く。

「うん、じゃあ、教えてあげる。だけど、落ち着いて聞いてね」

そして、俺に向けて寂しげに笑った。