「ごめん、言い過ぎた。これは君が決めることだ。僕達には強制なんてできない」

俺が黙り込んでしまったからか、斎藤さんは落ち着いた声でそう言った。俺は小さく首を横に振る。

「だけどね、だからこそ冬くんにはよく考えて決めてほしい。親御さんとか僕達の意思とかは一度置いておいて、自分だけの意思で。急かしたりはしないからその気になったら連絡して」

そして名刺を渡される。受け取ったそれの重さはなぜだか随分と重く感じた。

「それじゃあ」

俺が何か返事をする間もなく、斎藤さんは帰って行ってしまった。俺は呆然とそれを見てから、我に帰り名刺をポケットにしまう。

もし本当に治ったら、俺はきっと怯えなくて済む。冬を嫌わなくて済む。大切なものを失わなくて済む。だったら、もうそろそろ変わる努力をしなければいけないのかもしれない。

これからは、のぞみへの想いだけではなく、自分の未来についても、もっとよく考えていかなくてはいけないと強く感じた。