正晴の家からの帰り道、あと少しで家に着こうというところである男の人と遭遇した。

「冬くん! ちょうどよかった。君に会いに来たんだ」
「こんばんは。何の用ですか、斎藤さん」

斎藤由伸さん。俺の体質の研究をしている人だ。

昔から何度も研究の手伝いを頼みに来ている。まあいつも母さんにばっさり断られて終わるのだが。

「冬くん、やっぱり僕達の研究に力を貸してくれないか? 君の力が必要なんだ」

やはり今回もそういう用件らしい。何度来たって結果は変わらないのによくもこう繰り返し来られるものだ。

「何度来てもらっても力を貸す気はありません」

俺ははっきりと答えた。曖昧な返事で希望をもたせるような真似をするわけにはいかない。


「確かに時間を割いてもらうことになるし、リスクがないとは言いきれない。だけど、研究が進めば君はその体質を変えられるかもしれないんだぞ。なのにどうして断る!」

「もちろん俺だって治したいとは思ってます! でも、その研究を手伝っても確実に治るとは限らないんでしょう。だったら嫌です!」

「じゃあ、君は治る可能性を捨てるって言うのか? 確実なんてもんがないのは当たり前だ。だけど、君が変えようと思わなければ変わるわけがない」


つい二人とも熱くなって語気が強くなってしまう。斎藤さんが言っていることは正論だ。それはわかっている。

だが、変えるということは築いてきたものを壊すことに繋がるかもしれない。それはあまりにも怖すぎる。