「じゃあ、帰るか。送ってく」

二人の笑いが収まったころ、のぞみにそう声をかけた。

「別に一人で大丈夫だよ。駅から歩いて10分くらいだし」
「いやでも、心配だから送る。気ぃ抜いてて途中でなんかあったら嫌だろ?」
「じゃあ、お願いしようかな」

そんなこんなでのぞみを送っていくことになった。

病院で話していた時から、のぞみの家と俺の家は比較的近い場所にあることがわかっていた。最寄り駅が一緒で、隣の中学校に通っていたと知った時は驚いた。偶然が重なっただけなのだろうが、一種の運命とも呼べるのではないかと思う。


「またいつか一緒に遊べるかなぁ」

最初は無言で歩いていた俺たちだったが、ふいにのぞみがそう言った。その声は暗いわけでも、だからといって楽しそうなわけでもなく、少ししみじみとしていた。そして諦めが混ざっているような感じだった。

一時退院の許可というのはそう簡単に出るものではないはずだ。次に出るのは相当先のことになるかもしれないし、その時には俺がのぞみから離れていってしまっているかもしれない。きっとのぞみはそんな経験を過去にしているのだと思う。だからこそ、諦めが入ってしまう。

俺にも近いところがあるから彼女の気持ちはよく分かった。その辛さも知っている。でも、そんな俺だからこそのぞみを励ましてあげなければならない気がした。

「当たり前だろ。俺はのぞみとまた遊びたいし、そのためならどれどけ待たされたって構わない」

俺の言葉にのぞみがばっと顔を上げた。彼女の大きな目はほんのり潤んでいて、胸が苦しくなる。

「ほんと?」
「ああ、もちろん。いくらだって待つ」

俺はポンとのぞみの頭に手を乗せた。髪が乱れない程度に軽く撫でる。

守ってあげたい。
そう思った。

自分の不甲斐なさも、無力さも分かっていて、それでも守りたいと心から思った。それが使命であるかのような気さえした。

そして、絶対にのぞみを守ろう、と決意した。