「じゃあ、もうそろそろ帰るか」

しばらくして、俺は花を愛おしそうに見ているのぞみに声を掛けた。

今は5時過ぎ。最近は日が伸びてきたのでまだ明るいが、あまり長時間連れ回すのも良くないだろう。付き合ってもいない男女なわけだし。

「そうだね。ちょっと名残惜しいけどね」

少し寂しそうに笑ってのぞみが答える。楽しんでもらえていたと分かり嬉しかった。



「あ、そうだ!」

公園から出てバスに乗ると、のぞみが思い出したように声を上げた。俺は驚いて彼女の顔を見る。

「どうかしたか?」
「あのね、私行きたいところがあって。今から付き合ってもらうことってできるかな?」
「別にいいけど」

どうせ用事はない。俺が長時間連れ回すのは問題だが、のぞみの希望なら問題ないだろう。

俺の答えにのぞみは顔を輝かせた。まるで小さい子供みたいだ。

「駅前のアイス屋さんに行きたいの!」

駅前のアイス屋と言えば、俺がよく行くところだ。同じ甘いもの好きということもあって、正晴と行くことも多い。

「あー、あそこ美味いよな。どうせこのバスは駅行くんだし、せっかくだから食べようぜ」
「やったー!」

のぞみが嬉しそうに腕をぶんぶん振る。おかげで近くの席に座っている高校生に睨まれてしまった。

「のぞみ、嬉しいのは分かるけどちょっと落ち着け。ここバスの中だぞ」

彼女はそう言われて、やっと自分がバスの中にいると思い出したらしい。周りを見てから、恥ずかしそうに縮こまる。その姿は小動物そのもので、俺は噴き出してしまい、先ほどの高校生に再度睨まれた。