「私この花好きだなぁ」

ふと、のぞみがある花の前でしゃがみ込んだ。

ピンクと白色の可愛らしい花。ジニアだった。

和名では百日草といい、開花時期が長いことで有名である。花言葉は「不在の友を思う」。

俺がそれを伝えると、のぞみは驚いた顔をした。

「冬くんよく知ってるね」
「まあな。花は好きだから」
「へぇ、すごい! 私全然分からないや」
「でも好きなのか?」
「だってほら、かわいいから!」

そう言ったのぞみの方が数倍可愛かったのだが、言わないでおく。物凄く恥ずかしいし。

偶然だとは思うが、のぞみがジニアを好きだと言ったことは嬉しかった。

「不在の友を思う」、それはつまり、俺が眠っている冬の間、俺のことを思ってくれるということではないだろうか。我ながらポジティブな考え方だ。しかし、そうならいいなと思った。


「冬くんは何の花が好き?」
「桜一択だな」
「えー、ここに咲いてないじゃん」
「そりゃ、春の花だしな」

むぅ、とのぞみが頬を膨らませた。そんなことをしても、可愛いには違いない。

「あ、じゃあじゃあ!」

彼女は手を挙げて大きな声を出す。俺はのぞみの隣にしゃがんで、首をかしげた。

「来年の春に、冬くんおすすめの桜スポットに連れてって!」

これは、少なくとも来年の春までは仲良くしてくれるということだろうか。いや、きっとのぞみは俺の体質のことを知らないからこんなことが言えるのだ。知ったら、本当に冬の間会えなかったら、俺のことなんて忘れるに違いない。


「わかった、約束な」

そう思っているのに、自然とそんな風に答えていた。

「うん、約束!」

のぞみは楽しそうに笑って言う。


もし忘れられてしまうとしても、今この約束は俺にとっては大切で、嬉しくて、かけがえのないものだ。本当はそれだけでいいのかもしれない。わからない未来のために今の幸せを失う必要なんてない。

ぱあっと、目の前が明るくなった気がした。こんな簡単なことに、俺は今まで気づけていなかったのだ。のぞみのお陰でやっと気づけた。

やっぱりのぞみは特別の特別だ。のぞみと出会えて良かった、と改めて思った。